あの夏、いちばん静かな海。

故淀川長治は、この映画について、こう語っている。

 『あの夏、いちばん静かな海。』は私の最も愛した名作。あの若者の<男>の顔。あの女の<女>の顔。涙が出そうになったのは<男>が<女>の家の窓の下から石かなにかを<女>のいるらしき二階の窓のガラス戸に投げた時だった。タケシが自分の映画の中で愛を呼びおこすことをとても恥ずかしがっていること、しかも愛の深さ映画の中に見せたいことそれがあの二階の窓に石を投げたシーンにあふれ出た。いっさいモノ言わぬ映画その最高の「愛」の一瞬。

キネマ旬報社:フィルムメーカーズ2「北野武」より。 途中文章がおかしいが、原文のまま引用した
 わたしは随分以前にこの文章を読んで感動して、『あの夏、いちばん静かな海。』をいつか観ようと思っていて、やっと今日ケーブルテレビで観れた。でもこの文章のことはすっかり忘れていた。

 観てみると、わたしはそれほどガラス戸のシーンではどうこう思わなかったけど、<女>がひとりでバスに乗っているシーンでは思った。他にも、全体的に淀川さんが言ったような気配を感じた。

 画面の中に何人人が出てきても、「大勢」の威圧感がなくて、「ひとり」みたいに感じるところが、北野映画を好きだなとおもうところだ。あと、顔を映している時の間合が、リアルすぎる。自分もいつもこういう風に沈黙したり、言葉を探したり、照れ笑いをしたりしている気がするのだ。でなければ、こうはならないように。

<女>の、顔、服、化粧、髪型が、すごく饒舌にいろいろ語っていた。