『しとやかな獣』に『半地下の家族』のルーツを見た!!

Netflixをある日開いたら、HOME画面に大きく『しとやかな獣』がプッシュされていた。HOMEのチョイスは、最初にこっちが登録した嗜好に基づいて出てくる。

でなきゃ、過去の視聴履歴に基づくのだったか。

どっちか忘れたが、ともかく出てきた。

『しとやかな獣』はわたしが生まれた年に公開された、非常に古い邦画だった。なので、イントロだけのつもりで再生ボタンを押していたのだった。

したら、これが妙なカメラアングルで始まって。

図のように、団地の外側から写しているのである。階数は3階以上と思われる高さの、ベランダ側から。

室内では、中高年の夫婦が部屋を行ったり来たりと、忙しく物を片付けていた。どうやら、客人が来るらしく、その客に裕福と思われたくなくて、額縁の絵画やテレビ、ステレオを隠しているのだ。テーブルの上の灰皿も、トイレに置いているアルミ製のに取り替えた。本人達も、着ていた和服を脱いでボロイ浴衣に着替えたりと、念がいっている。

最初から奇抜なアングルであったが、トイレに灰皿を取りに行ったシーンでは、トイレの金属パイプ裏からの撮影で、どうやったらそんなところにカメラが入るんだ、思うほど。

特徴的だからついでに書くと、その間のBGMが際立っている。当方教養がないので歌舞伎なのか能なのか不明ながら、ともかく劇的かつニッポンニッポンした、和太鼓やかけ声の音楽が流れ続けているのである。

かくして、客はあらわれた。団地の階段を上がって。3人いる。

芸能事務所社長と、外人のふりした怪しい日本人と、会計の女だ。社長は、中高年夫婦の息子が金を持ち逃げしたといって責め立てていた。女は無言。怪しい日本人も、わーわー責めていた。

中高年夫婦は、終始一貫、おちついた口調でシラを切り通していた。妻の方は過剰にお上品なしゃべり方。夫の方も低姿勢ながら、あきらかに人をくったとぼけた口調。

「あたしの17万返してネ、でないとポリースポリース」とか片言で言っていた怪しい外人風が、「こいつらグルなんだよ、かえろかえろ」とそのうち言いだし、3人は帰った。

夫婦ふたりだけになると、夫婦のしたたかぶりが常識外れなのがわかってくる。横領の息子も帰ってきた。さらに、娘も帰ってきた。娘は、有名作家の「めかけ」になっているのだが、両親は大いに推奨。なぜって、有名作家から金を借りられるからだ。

ここらへんまで来て「あれ? これってパラサイト・半地下の家族じゃん!」と閃いた。

共通点は、持ってる人間から金を横取りすることに微塵の躊躇もないこと。それを子どもへ当たり前の教育としていること。家族の絆の強さと家族構成。

見てると、住宅描写へのこだわりにも共通点があることに気付く。『パラサイト』に出てきたのは、半地下~地下のド貧困。こちらは、「雨漏りのするバラック」(セリフとして出てくるだけだが)。階段を上がったり下がったりすること。

バラックから団地にどうして住めたのかというと、娘の愛人の有名作家が、娘を住まわせた一室に、家族全員が転がり込んだ。その上でさらに、有名作家に寄生し続け、息子の稼ぎに(この息子の就職も有名作家の口利き)寄生し。

ざっと要点を言ってしまったが、「若尾文子」演じる「三谷」については語らずにおこう。三谷は人を狂わせる。いやさ若尾文子は狂わせる。

シングルマザーがこの映画を見て、「自分もこんな風に這い上がろう、自己責任で」、なんて考える人がいたら、

「フィクションだから。これは。」と、お節介せねばなるまい。

若尾文子の無敵ぶりに惑わされてはいけない。あなたは若尾文子ではないのだから。

ちなみに、「しとやかな獣」が指すのは三谷、のように思われるが、実は三谷ではなく一家の母なのではないかとするユニークな感想を述べているサイトがあった。

おもしろい。

わたしは、『パラサイト』の監督が日本映画をどの程度見ているのかは知らない。
それほどは見ていないかもしれない。
にも関わらず断言できるのは、若尾文子の出演作ならば、全部見ているに決まっている。ということだ。

そうでなくて映画監督になる馬鹿な人(特にアジア人なら)がいるはずない。

きっと、そのついでに、『パラサイト』のエッセンスをつかんだなと、勝手に思った。

(『パラサイト』の方がぜんぜん派手な映画ですよ!!)