クラウドガール

書籍、クラウドガール日曜日の新聞に著者インタビューとともに紹介されていた本。その見出しは「ネット時代の真実とは」と、いうものだった。

(((この続きを開くと先入観をもつおそれあり。注意!)))

ネット時代の真実・・・そそる惹句じゃないか。タイトルにも「クラウド」って入ってるし、これは本格的にネット絡みの心理や事件、あるいは人間関係を描いているに違いない。そうだな、SNSで知り合った男女が言葉のやりとりをしている間に妄想と理想が肥大してドツボにはまっていくの。そのあげく男女の概念が変質していくと読み応えあり。

もしくはクラウドつうくらいだから、存在がクラウドにあって自在にダウンロード/アップロードして会ったり話したりナニするんだけど一週間アクセスしないと身体に広告が付いてしまう。さらに一ヶ月たつと消される~ やばい早くアクセスしてあげて~ みたいなスリル満点のSF風味・・・ できるならオーウェルの1984の現代版の2071笑みたいだったらいいな。

と、期待が勝手に膨らんでしまった。

途中からは、「ネット時代」にこだわるのは辞めた方がいいと察したけど、それが判明するまで「いつになったらネット時代なことが起きるんだろう?」と考えながら読んでしまったので、新聞の人も変な先入観を与えないでほしい。ほんとに、ちゃんと読んでから記事を書いているのか?!って聞きたいくらいだ。

こだわらなければ、それはそれ、一気通読させる力はもった話だった。ちょっと変わっているのは、姉と妹、ふたりの「私」が一人称で話を進めていくところ。といっても、両者の語りにさほどの違いはない。文中「杏」と呼んでいれば杏じゃない方なんだろうし、「理有ちゃん」と呼んでいれば理有じゃないほうなんだろうとしか、判断できない。というか、妹の方は刹那的で歴史を認めず、時間軸をもった人間というのを認められないのじゃないのか?? (まあ、そう言っていたのは姉なので、実は違ったのかもしれない)

何より惜しいのは、これから小説が始まる、というあたりで急転直下終わってしまったこと。

ことに、

「私たちの心に人間愛を感じさせるのは、私たちに共通の惨めさなのだ。ルソーのエミールにそうあります。本当に幸せな存在は孤独な存在だ、とも」

という、最後に出てきた高橋のセリフがキーフレーズ。

このフレーズの前後から小説らしくなってくる。

そこらまでは、「惨めさ」が感じられないのだ。

誰も彼もがかなり大変な思いをしているのにファッショナブルな要素が強すぎて、共感を呼ぶに至らず、「こりゃ大変だ」くらいの、淡々とした感じで読めてしまう。

人の心の細やかなあやを小説ならではの設定を生かして描写しているシーンはとてもいいので、もっともっと読む人間の内奥に食い込んで欲しいものだ。
(最後の方はかなり食い込んできた)

人へのオススメ度

中くらい。

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