志恩 / MUCC, media:アルバムCD
ムックのことを最初に教えてくれたのは、ユマちゃんという女の子だった。
ユマちゃんは入院中の女の子で、年は27、8、あ、言い忘れたけど入院中といってもせいしん科なので、彼女、体は頑丈、ただし、幻覚や幻聴に悩まされること十年くらい、以前はひどい自傷行為に走ったこともあったようだ。
今は落ち着いていて、詩を添えたイラストなどをよく描いている。悲壮なイラストも多いけど、けっこうユーモラスなものも多い。
そんな彼女が教えてくれたのがムックで、今となってはうろ覚えだけれど、真っ白いCDジャケットだった。ところどころ血の痕がついていて、一瞬彼女の血かと思って息をのんだけれど、そういうジャケットなのだった。また、顔の輪郭の溶け出した目が、呪いを込めてこちらを見ていた(※)。歌詞は、誰がどう読んでも読み間違えようがないくらいに、克明に意味が刻まれていた。複雑な気持ちになった。その世界が死に近すぎたからだ。
彼女はこんなことを言ったことがある。
「今、私のことでみんなが困っている時の、教室にいる。」
みんなが自分のことで困惑しているときの感覚が、いわゆる「記憶」としてではなく、その時その場の体感のまま蘇ってくる、というのだ。イヤなことから次々忘れるから人の心は守られているというのに、脳の機能のどこかが故障しているか、過剰に働いてそういうことが起きるのだろう。
音楽は、自分の内側以外に関心を向けるという意味で、とてもいいものだと思う。けれど、あまり楽しい音楽だと、疎外感を感じツラくなることがあるので、ムック、きっといいのだろうと思った。
ということで本作(3/26発売)、ネットで見ていたら、なんかかなり良さそうな雰囲気があった。
アルバムCDは3000円超なのでかなり高額な買い物だけれども、あの世界がどう展開したのかというのは、とても知りたい。
結論を先に言うと、大変にいいアルバムだった。
ただ一曲「フライト」という曲がやけに普通なのでビックリしたけど、こういうストレートでメッチャポジティブな曲もやれるし、やる意欲があるということだろうか。その「フライト」の中の、「永遠と感じる一秒繋いで僕らは笑える」というフレーズは、単に「永遠」だと「永遠なんてものはこの宇宙にないんだ!!」と切れる無粋な人があらわれる危険があるが、「永遠とは、永遠と感じる一秒を繋いだもの」と考えるとしっくりくるなぁと非常に感心した。
1. 水恩
インストルメンタル。最後までこの調子でいくならそれもいいなと思った曲。でも違った。
2. 梟の揺り篭
オリエンタルムードいっぱい。声の伸び方が非常に気持ちよい。
3. 塗り潰すなら臙脂
ハードロック(用語よく分らず)。読みは「ヌリツブスナラエンジ」
4. ファズ
凝ったメロディと美しい音。何かを思い出す曲。何だっけ、西部劇?「東京コイントスダイブ」というのがキーワード
5. ゲーム
ドンヨリ暗い曲調で始まるのに、途中から聴きやすくなる。ハードロック。ボーカルが綺麗。
6. フライト-Album ver.-
元気いっぱい
7. アンジャベル
メロディアス。大陸的な雄大さがある。
8. 小さな窓
アコースティックギターで始まる。四畳半でうつむいている感じに暗い。これだけテンポが遅い。後半高まりが来る。悲しい。さらに最後もう一高ぶりが。最後はオーケストラチックな音と融合だ
9. 蝉時雨
非常に軽快なスピードで進行する。届けーー!!がかっこいい。悲しみをたたえつつ。幾度か転調するので単純ではない。
10. 志恩
アルバムタイトル曲。ドラムじゃない打楽器ドコドン。インド民謡風?首をウネウネさせる女性が後ろにいそう。アジア的な音にムック的な旋律が絡む。かと思うとそうでもなくなったりと変化に富んだ曲。一大叙事詩かという雄大さだ
11. 空忘れ
売れ筋。マドンナのダンスナンバー風のイントロ。物悲しくメロウ。かと思ったらキーが上がって明るく。
12. シヴァ
ハードロック。かと思ったら優しく。
13. リブラ-Album ver.-
メーターの振りが大きい。「汚ねえ算盤はじく音鳴り響く世界よ止まれ」等非常にかっこいい。これはまさに届け!!な曲だ。
先日、ユマちゃんに『志恩』の話をしたら、彼女は「ファズ、入ってる? ファズが好きなんだ」という。
「ファズ」なら入っているし、最近の曲なので、ムックが以前よりメジャーになった今もファンである気持ちは消えていないと分って安心した。なにせ、人気者になると寂しくなって離れてしまうことも多い。
この時代はあの時代とつながっているのだから、そこをぐっとこらえて聴きつづけてほしいものだ、なんて余計なお節介なのだけど。
ユマちゃんは今、悪い記憶に乱されないよう、「今のいい状態を、しっかり覚える」練習をしている。
※
オフィシャルで探してもジャケットかみつからない。うーーん中を開いたときの印象かな