【れびゅう】アウトレイジ

アウトレイジ

『アウトレイジビヨンド』公開を記念して、その前作にあたる本作をケーブルテレビが流してくれた。
北野映画はもっと見たいのだけど、『アウトレイジ』は残虐シーンが多いと聞いていたのでこういう機会でもなければ見なかったろう。

とにかく残酷だから見ない方がいい、つーか見ちゃダメ!! とうちの末次郎にまで言われていた。

末次郎はもう18歳なのに怖がりで、昼間でもトイレの電気を付ける。せめてその電気出る時に消してくれと、わたしはよく注意している。

ちなみに彼によると、海外のゲームは残虐きわまりないものが多く、吐き気がするほど非道だという。ああいうのはとてもじゃないが日本人は作れないとも。
「そんな事を言っても、海外向けのゲームも作らなくては国際競争に負けるのでは?」と問うと
「日本だけでやってくんじゃダメ?」と、いたって閉じたことを言っているヘタレさんでもある。

ダメに決まっているでしょうとも思うが、凄惨でむごたらしいゲームを楽しむのもどうなんだろうと思うとよくわからない。

それは兎も角、怖い描写は指の隙間からのぞくだけにしようと思い、ビクビクしながらみた。
そうしたら冒頭のシーンが、ヤクザの男達が数台の黒い車の前でたたずんでいるシーンで、このシーンが色鮮やかな緑、白、にあふれたとても美しいものだった。まるで、海の底に明るい日射しが差し込んで、その中を彼らのタマシイがたゆたっているような、ため息がでるような映像なのだ。ここからして作品に引き込まれていた。その後も色調の濃いクリアな映像は続き、宴会シーンで飲んだり食べたり、そこを下っ端の若いもんがお酌をして回るシーンでも、うちのテレビの性能が急に良くなったのか思ったくらいに美しかった。うっとりと見ほれてしまうのだが、それがかえってこの後に血だらけになる画面を予感させて、恐ろしかった。真っ赤になる、予感。

全体にストーリーといえるものがあるのかどうか、わたしには分からない。というのも、何で殺されているのかよく分からない殺しが次々に起きるからだ。ヤクザの世界は難しいパズルみたいで、虚実が入り交じっている。それに金や覇権への欲と、積もる恨み、つらみ。酷い暴力を受けるのだけど、それで懲りるとか、嫌けがさすではなく、募る恨みつらみが彼の存在理由そのものとなって、彼のカラダの重さと等価になる。わたしは見ている間中「何なんだろ? この人たち何なんだろ?」と頭をひねり続けてぐるりと首が一周してしまった。

大友が「ふざけんなこのやろーっ」と怒声を挙げる。しかしそれも本当に怒ってのことなのか、怒っているフリなのかよく分からない。たぶん半分は本当に怒っているだろうが、半分は怒るタイミングをきちんと演じるためであり、自分の立場のためかと思う。このタイミングを推し量ることができなくては、ヤクザなどやれない。指をつめるのも、ひとつの計量であり自分を示すためだ。せっかく大友が持って行った小指を、三浦演じる加藤は「こんなつまらないもの」とコケにする。が、だからといって指を持ってこないで済ませられるというものではない。指は要る。そしてコケにすることで示す、自分の優位と力。

ある意味、どこでもある風景を極端にした形かもしれない。ただし宣伝文句の通り、皆が悪人で皆が腹黒く皆が情のかけらもない。あるのかと見える瞬間もあるが、情はまるでない。極端にないからこそ、その存在がどこかに潜んでいないかと、細心の注意をはらって見守ってしまう。けど、ないものはない。それを一番実感させてくれたのは椎名演じる水野で、椎名さんはこの中で一番一生懸命演技している感がにじんでどこか浮いている人。底の方でビートたけしのギャグが時々透けて見える映画空間–たとえばものすごく忠義面をした杉本哲太が当たり前に裏切っている姿とかのおかしさ–の中で椎名さんだけがそれを察知していない。椎名さんは一生懸命に演技をしている。その懸命さが逆に、虚実の実の方を感じさせたのは皮肉だ。ともかく、そんな彼があっさりこんと、かけらも惜しまれずに命(=出番)をなくし、誰に悲しまれることもなく消えた。(あんなにガンバって演技していたのに!!)
あの時椎名さんが、そして一人の人間が死ぬところを見た、と思う。
もちろんわたしは何も悲しくなかった。悲しませるような要素は何もなかった。

北野演じる大友の後輩で、今はマルボウのデカの片岡を演るのが、優しいお父さん顔の小日向文世だ。この顔の印象とやっていることのギャップが面白いわけであるが、まったくもってこいつも汚い。汚いが、他もみんな汚い。そもそも警察にとって悪や暴力や殺人や犯罪はメシのタネである。それを言っちゃおしまいだが、事実だ。しかも、自然発生の犯罪だけではメシのタネが足らず冤罪をこしらえるのだから、恐ろしくてたまらない。

 

もっともそれを言っていたら本作どころではなく、本気で怖い話しになるので今はやめる。

 

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