冬の間、水泳部は干上がった魚みたいに陸上部と化していた。
プールが使えないので、400メートルトラックを20周するのが日課なのだ。
でも僕は、陸の上を走るのが好きじゃない。
地面が固いからだ。
なんて「わがまま」も、もうすぐ言っていられなくなるのだが。
今年、インターハイ出場一歩手前まで勝ち抜いた僕は、来年度は部長をつとめなくてはならないのだ。
気楽な無責任を楽しんでいられるのも、今のうちだ。
その日、僕はいつも通りきっかり5周で切り上げて、教室に戻った。
放課後の教室には誰もいなかった。
さあ、帰ろうか。ゲーセンにでも寄って。
鞄を肩に乗せて歩き出すと、黒板が目に止まった。
白いチョークで何か書いてあった。
ベッコウ飴 君への想い 煮焦がして
黒板に近寄ってもう一度読んだ。
ベッコウ飴 君への想い 煮焦がして
いったい誰が?
最初に浮かんだ疑問だ。
教壇の上の小さいペン立てに、なるほど、ベッコウ飴が差してあった。
黒板の内容とシンクロしている。つまり、プレゼントのつもりか?
その推測を補強するように、透明なセロファンで包んであった。
ベッコウ飴は、子供の頃、夜店で買ったことがある。
溶かした砂糖と水あめを、鉄板の型に流し込んで焼くのだ。
あれは確か、ひょうたんの形をしていた。
今目の前にあるやつは、何の形だろう?
閉じかけた傘? 蝶のさなぎ? それともひょろ長いサンマか?
腹の減っていた僕の口腔内に、唾液が湧いた。
無性に甘いものが食べたくなっていたのだ。
食っちまおうか?
夜店のベッコウ飴の、甘い味が蘇り、我慢できなくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆選択問題1:黒板に文を書いた人物は誰か?
a 「僕」に好意を持つ女子
b 「僕」に好意を持つ男子
c 「僕」以外の人物に好意を持つ女子、もしくは男子
d 「僕」を騙そうとしている人物
e その他
◆選択問題2:ベッコウ飴の本当の形は何か?
a 傘
b さなぎ
c さんま(などの魚類)
d ハート
e 「僕」
f ひょうたん
g 特定不可能
h きのこ
i ロケット
j 蛸
k 何でもない
l その他
◆選択問題3:この後「僕」のとる行動はどれか?
a ベッコウ飴を食べる
b ベッコウ飴を食べないことにする
c 黒板に書かれた文について考えをめぐらす
d 思い直してもう一度トラックを走り出す
e 黒板に書かれた文に返事を書く もしくは自分も何か書く
f 何かを思い出す
g 自分が好意をもつ相手のことを思い出す
h 心当たりのある人物を思い出す
i 自分へのラブレターだと気づき相手は誰かと考える
j 自分へのラブレターだと気づきベッコウ飴を食べる
k 自分へのラブレターかもしれないが自分以外へのラブレターかもしれないので悩み出す
l その他
◆選択問題4:この後起きる「僕」以外に起因する出来事は何か?
a 黒板に文字を書いた本人が入ってくる
b 担任の先生が入ってくる
c 水泳部の部員もしくは顧問が入ってくる
d 「僕」の彼女が入ってくる
e 「僕」の片想いの相手が入ってくる
f 絶世の美女が入ってくる
g 親の仇が入ってくる
h 水泳のライバルが入ってくる
i 親友が入ってくる
j ベッコウ飴に毒、もしくは睡眠薬が入っていた
k タイムトリップする
l 拉致される
m 死体が転がっている
n 夕陽が沈む
o その他
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇