感じて。息づかいを。

感じて。息づかいを。 (光文社文庫)

恋愛小説のアンソロジー。川上弘美編。収録作品は下の8編

  • 桜の森の満開の下/坂口安吾
  • 武蔵丸/車谷長吉
  • 花のお遍路/野坂昭如
  • とかげ/よしもとばなな
  • 山桑/伊藤比呂美
  • 少年と犬/H・エリスン (伊藤典夫 訳)
  • 可哀想/川上弘美
  • 悲しいだけ/藤枝静男

 とりたてて読みたいと思うわけではないのに機会があって出くわすことの多い「桜の森の満開の下」は、今まで数回にわたり読んだ時と同じように今回もワケの分らない話しだった。今回は、男が「人間ってなんてつまらない」と独自の悟りにいたる境地がひどく納得がいった。納得というよりそう言い切ってしまうところがすごい。わたしなどは「つまらないのじゃないかなー」と思いながらもそうは言い切れない未練がある。すがりついて夢をもって幻想を追いかけてステキステキと思っている。これからもきっとそうだ。男が「喋ることなど何もない」と言う。この気持ちが分る。でもそれでは人の世で生きていけない。生きていくためのバカバカしいほどのお約束、それについて普段は、考えない。考えないようにしている。そういうのについて。
 野坂昭如の書くものはいつもえぐい。といってもそんなに読んだことはない。あるのは、子供の教科書に載っていた戦時中の話しくらい。それもまた残酷きわまりないもので、空襲で火に取り囲まれ、赤ちゃんを抱っこした母親が、火から赤ん坊を守るためにお乳をかける、というもの。乳は次第に枯れとうとう血が吹き出すにいたる。それでもやめず焼かれていく赤ん坊を守ろうと乳をしぼる母親のお話。「花のお遍路」もやはり塩抜きする前のゴーヤみたいなどぎつい味、と思ったけれどスタイリッシュな文章でもあるので、警戒していたほどでもない。こういうのも恋愛なのだろうか。自分への愛とは違うのか。ある意味爽やかでもあるのだが、わたしはやはり爽やかとは思いたくない。
 よしもとばななの小説はあまり読まないので、「とかげ」初読。「とかげ」の世界も野坂や坂口の世界と変わりないくらい、ひょっとしたら上なくらい、悲惨なのだがあまりそういう感じはしない。それはよしもとばななに作家としての力量がないからというよりは、よしもとばななの書く悲惨の方が書くのがヤバイタイプの悲惨だからじゃないかな、と思う。あまり、こんなのは精神衛生上書かない方がいい、と思うような。この恋愛小説のいいところは、そこそこの甘さがちゃんと残っているところだ。だって女(の子)って甘いオヤツが好きなんだもん。そして、やむにやまれぬ、せっぱつまった必要性のもと恋愛はあるのだ、というところも。
 「可哀想」。性の場面で「ものがたり」というのか、さまざまな関連づけが頭の中で行われるのは、うっとうしいものだ。いつ、どんな時もいろいろなことを考えてしまう、考えていないフリをしながら考えてしまう、そういう人間(おんな)であることがとてもイヤだ。と思いながら。ナカザワさんみたいなオトコってどこにいるのだろう? なんて書いて「へへへ、わしが痛くしてあげまっせ」なんて言われたらウッだな。そういえば今はSMが主流らしい。主流って言ってもどこでどう主流なのか知らないが、渋谷あたりで主流らしい。でも、それが「SMプレイ」になってしまったらそれは違うだろう。逃げたいと思ったソレと同じになってしまうだろう。わたしはわたしのナカザワさんに出会いたいような、出会いたくないような、へんな気持ちだ。

 「悲しいだけ」。アンソロジー中この小説を一番最初に読んだ。あとに読んだやつがすごいのばっかだったので、霞んでしまったが。タバコを吸うところが特にいい。

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