The BACK HORN

イキルサイノウ
達也(仮名十八歳)のああいう状態っていうのは、思春期とか反抗期とかモラトリアムとか何とか症候群とか、そういう言葉で説明できるのかできないのかわからないけど、頻繁に大学の先生から単位が足りなくなるとかって電話がかかってくるし、兄弟ふくめ家族と口はきかないわ、どうすればいいのか。

なんでもいいからはちょっとくらい喋ってくれてもいいと思う。
わたしがにくいのかな、とか、考え出すと、確かにそれほどいい母ではなかったなぁ…

The BACK HORNの『イキルサイノウ』は、達也のステレオの脇でみつけた。
イキルことは本来、本能が勝手にやってくれることだから才能など必要がないはずなのに、そこへサイノウとくっつている。
ジャケット写真も、肉片らしきものを持ち上げた片目の若者がアップで写っていて、実のところ達也の顔かと思ってギョッとした。

買ったわけではなくレンタルのようだが、達也の内面を代弁しているようにも思え歌詞カードを見ると、惑星メランコリー 光の結晶 孤独な戦場 幸福な亡骸 花びら プラトニックファズ 生命線 羽根~夜空を越えて~ 赤眼の路上 ジョーカー 未来、といった曲目が並んでいる。

歌詞はというと、たとえば「ジョーカー」は

子供の頃に描いた夢、大学生と書きました。
子供の夢らしくないと、先生に叱られました。
幸せな家族の風景、無理矢理口に詰め込まれ、
「好き嫌いはいけません」と、母は笑って言いました。

そうか、まるで分かってないんだ。大人は判ってくれないと。「好き嫌いはいけません」、これはわたしもよく言うよなぁ… だって好き嫌いは良くないし。
あーでもなんで良くないのだっけ? なんだか分からなくなってきた…

だんだん疲れてきたので、もう歌詞カードを見るのはやめて、CDをちょっとだけ聴くことにした。

聴いてみると、思っていたほど怒りや悲痛さは感じられず、ノスタルジーを感じさせる曲もあった。それも今までに感じたことのないタイプのノスタルジーで、ノスタルジックなのに新しい、という矛盾した感じだ。
達也のステレオの上でみつけたのでなければ、もっとちゃんと聴きたいと思いつつ、これはわたしにとって敵であるべき音楽ではないか、と思うので、途中でやめた。
またあとでコッソリ聴くことがあったとしても。

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