防衛省と県立地球防衛軍と実相寺昭雄

セブンセブンセブン―わたしの恋人ウルトラセブン

実相寺昭雄氏が先月29日に亡くなった、という話題をあちこちで見た。
氏は、TVドラマ『ウルトラセブン』のメインスタッフとして、また、同作品中の「狙われた街」(登場怪獣:幻覚宇宙人メトロン星人)、「遊星より愛をこめて」(同:吸血宇宙人スペル星人)=現在欠番、「第四惑星の悪夢」(同:ロボット長官 ロボット署長 第四惑星人。脚本も氏)、「円盤が来た」(同:サイケ宇宙人ペロリンガ星人。脚本も氏)の監督として、後のさまざまな分野に多大な影響を与え、永久不滅に近いリスペクトを受ける方である。といっても、あえて追記すると『ウルトラセブン』は必ずしも実相寺監督の作品だけが素晴らしいのではなく、他の45作品も、「実存性」や芸術性こそ目立たないものの、怪獣のデザインといい、脚本といい、破天荒で自由なノリといい、どれも素晴らしく面白いのである。

そんな実相寺氏が亡くなった29日の翌日の30日の午後、「衆院本会議で自民、民主、公明、国民新の各党の賛成多数で可決、通過した。参院での審議を経て今国会で成立する見通し」となった。何がって、防衛「庁」の防衛「省」昇格が、である。

それで連想が働いたのは、自分史の中で一時期を占めた安永航一郎大好きシーズンで、中でも傑作『県立地球防衛軍』だ。「それならいっそ自衛隊はやめて防衛軍になればいいんだよ、そうそう県立地球防衛軍みたいに!」と思ったのだ。それで思わずwikipediaで同作品について調べたら、なんと『県立地球防衛軍』の各回のサブタイトルはすべて、『ウルトラセブン』の各回のタイトルのパロディだったのだ!

サブタイトル
『県立地球防衛軍』のサブタイトルは、すべて『ウルトラセブン』の
サブタイトルのパロディになっている。
(「アンドロイド0大作戦」については、映画『緯度0大作戦』のパロディにもなっている)
1. なさけなき挑戦者 (姿なき挑戦者)
2. カレーの国からきた男 (V3から来た男)
3. 楽しい隣人 (怪しい隣人)
4. 県立地球防衛軍、海へ (ウルトラ警備隊西へ)
5. ひとりぼっちのインド人 (ひとりぼっちの地球人)
6. プロジェクト・ピンク (プロジェクト・ブルー)
7. サイボーグの脚線 (サイボーグ作戦)
8. 魔の店へ飛べ (魔の山へ飛べ)
9. 驚異の超変人 (恐怖の超猿人)
10. 栄養は誰のために (栄光は誰のために)
11. 家庭教師を追え (海底基地を追え)
12. 散歩する迷惑 (散歩する惑星)
13. 元旦がきた (円盤が来た)
14. 海中からの挑戦 (水中からの挑戦)
15. 摂氏34度の退屈 (零下140度の対決)
16. アンドロイド0大作戦 (アンドロイド0指令)
17. 盛田対メカ盛田の決闘 (ダン対セブンの決闘)
18. 消された記憶 (消された時間)
19. みどろの恐怖 (緑の恐怖)
20. 貧民牧場 (人間牧場)
21. 勇気あるお誘い (勇気ある戦い)
22. あんたはだまれ (あなたはだぁれ?)
23. 地方最大の侵略 (史上最大の侵略)
24. グリコーゲンXを倒せ (地震源Xを倒せ)
25. 親睦する縁者たち (侵略する死者たち)
26. 豆腐を配れ (明日を捜せ)
27. まっする君、応答せよ (マックス号応答せよ)
28. 別世界の県立 (月世界の戦慄)
番外編 ゼンブ暗殺計画 (セブン暗殺計画) 注・単行本未収録

気づかなかったなぁ。上のタイトル見ているだけでアホらしくて笑っちゃうが、考えてみれば、『県立地球防衛軍』の「地球防衛軍」は『ウルトラセブン』から拝借しているのだろうから、驚くことではないんだろう。
wikipediaによれば『ウルトラセブン』における地球防衛軍とは

遊星間侵略戦争により地球が多くの宇宙人に狙われているという新たな世界観が加味されている。そのため、地球防衛軍という世界規模の軍事機構が組織されているという設定が導入され、ドラマも敵対的な宇宙人に対する諜報戦として描かれることが多いなど、軍事色が強い作品カラーになっている。特撮の見せ場となる超兵器の発進プロセスも同様である。これらの設定には当時の冷戦、特にベトナム戦争の存在が大きく反映されている。

(中略)

地球防衛軍が行った新兵器実験の犠牲になった宇宙怪獣の悲劇を通して軍拡競争への批判を描いた第26話「超兵器R1号」など、娯楽作品の枠にとどまらない重いテーマの作品がある。

とのことで、「地球防衛軍」という設定自体、東西冷戦やベトナム戦争を反映していることが分る。
ところで、わたし自身は『ウルトラセブン』をリアルタイム(1967年=昭和42年から1968年=昭和43年)では見ていない。まだ生まれていないから、ではなく、とっくに生まれてはいるものの、共産党家庭の我が家は、資本主義の象徴であるCMが入る民放を毛嫌いしていたため見せてはくれなかった。それに、仮に共産党家庭ではなかったとしても、わたしの場合、わざわざ男子向けのテレビを視聴したりはせず、歌番組とか、女子向けドラマを見たであろうことは確実なので、やはり見ていないと思う。

そんなで、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』とまとめて見ることになったのは、1987年、男子が生まれてしばらくしてからだ。当初さほど子供と一緒に見る気はなかったのに、レンタルビデオで一度見たら「面白いじゃんこれ?! うそーアンヌ隊員エロかっこかわいい!」とすっかりはまった。ただし『帰ってきたウルトラマン』以後のウルトラシリーズは換骨奪胎され、怪獣の登場とそれをやっつける格闘(戦闘)場面のカタルシスのみに堕してしまった感があり、それ以上子供にレンタルビデオを借りてくることはなくなった。
そうこうしているうちに、リアルタイムで新しいウルトラシリーズが『ウルトラマンティガ』として始まった(1996年9月から1997年8月)…

UH19 ウルトラマンティガ(マルチ)

『ウルトラマンティガ』は必ずしもV6の長野君が出ているからという理由ではなく(その起用も新鮮ではあったが)、見ごたえのあるものだった。今の時代ならではの怪獣物、今の時代ならではの戦闘物とはどうあるべきかという思考を感じさせたので、面白かったのだと思う。本作では冷戦時代の発想を捨てさり、地球防衛軍と名乗るのもやめ、代わりに「地球平和連合 TPC (Terrestrial Peaceable Consortium)」の極東本部に属する「Global Unlimited Task Squad(世界規模の無制限に仕事をするチーム)略称:ガッツ」という設定にしていた。

GUTS

Global Unlimited Task Squad(世界規模の無制限に仕事をするチーム)の略称でガッツと読む。地球平和連合 TPC (Terrestrial Peaceable Consortium) の極東本部属する特別捜査チーム。本部基地はダイブハンガー。通常は海中に没しているが、航空機の発着時などは浮上する。

GUTSは非武装集団であり、当初は航空機等に武器は搭載されていなかったが、怪獣に立ち向かうために武装化された。あっという間に最新兵器が搭載されたところをみると当初から「その気」はあったものと思われる。Globalという語が名に盛り込まれ「世界中にGUTSのような組織を作る」というサワイの言葉からもGUTSのワールドワイドでの展開は設立当初からの構想である事がうかがえる。

怪獣が現れ戦うという設定はウルトラシリーズにとって譲れないものである以上、武装化は避けられない。ここらへんが、マガジン9条のインタビューで巻上公一氏

それにてしても、みんなウルトラマンの見過ぎだね。地球を侵略しに未知の世界から、宇宙人がやってくるから、地球を守らなくてはいけない、みたいな。ウルトラマン的な世界で見ているから、あんなチンプな発想になるんじゃないかな。

だいたい何のために国際交流をやっているのか、経済や文化の交流をやっているのか。会ったらみんな宇宙人ではなく、自分と同じ普通の人だったということが、わかるはずです。

などと痛いところを突かれるゆえんで、そーは言ってもぶっちゃけ武装しないとガッツウイング号(戦闘機)とかガッツウイングEX-J(戦闘機)とかピーパー(小型地底戦車)等々が玩具にならないんだから仕方がないのだよ。確実に商品化予定のウルトラ本体も、少子化で大した売上を見込めないためか、変身形態を三種類とし、ひとりの子供に3体買わせる作戦に出たくらいだ。これには参ったねぇ。それまでもほぼすべてのウルトラは買っていて、特にセブンは一番のお気に入りでどんどん使う(バシバシと戦う)ためすぐぼろくなり、3回買いなおしている。それが今回いっきに3個発売っていうのだから。ただ、ウルトラの人形のスタンダードバージョンは怪獣含め1000円以下であるから、ゲーム関連に比べれば安いので、全部買った記憶が。←ちなみに子供はウルトラ見たら絶対おもちゃ欲しがる。一番欲しがるのはウルトラ本体か怪獣。武器や戦闘機も欲しがることは欲しがるが、怪獣ほどではない。

巻上さんの言う通り、従来のウルトラシリーズは「宇宙人がやってくるから、地球を守らなくてはいけない」みたいな、不信感と怖れと被害妄想先行型の発想だったため(それゆえのオモシロさがあるわけだが)、1996年のティガではそこからの脱却をはかった。1996年のスタッフは、ウルトラで育った新しい世代と、実相寺氏も含む従来のスタッフとの共同であったという。

そして生み出したのが、「地球平和連合」という考え方であり、同時に、本当に立ち向かうべき相手は誰か? 本当に守るべきものは何か? という問いだった、と思う。

省に昇格する防衛庁は、今後どういう仕事をする気なのか、今さら冷戦時代のウルトラシリーズよろしく人間なのに宇宙人扱い、みたいにならなければいいなぁと…

 

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