2006年のTierra。君を今も想う日々が僕のすべてだとしても

Track listing
1. "In the Air" (hyde/hyde) 4:51
2. "All Dead" (hyde/hyde) 4:17
3. "Blame" (hyde/tetsu) 5:11
4. "Wind of Gold" (hyde/ken) 4:29
5. "Blurry Eyes" (hyde/tetsu) 4:20
6. "Inner Core" (hyde/sakura) 5:31
7. "Nemuri ni Yosete" (眠りによせて) (hyde/ken) 5:15
8. "Kaze no Yukue" (風の行方) (hyde/ken) 5:24
9. "Hitomi ni Utsuru Mono" (瞳に映るもの) (hyde/ken) 4:47
10. "White Feathers" (hyde/ken) 7:58

2006年最後の数ヶ月はこのCDだった。2003年からリアルタイムで聴いた2枚のアルバムと平行して、時代を遡行して1枚ずつ以前のアルバムをたどり、ようやく1994年7月リリースの2ndアルバムである本作まで来れた。3年もかかったのは、どのアルバムもヘヴィロテ体制に入ってしまうからで、それでも、諸般の事情で3rdアルバム『heavenly』と4thアルバム『True』はまだまだあまり聴けていない。

ベースの音がこれほどよく聴こえるアルバムは初めて聴いたように思う。あらためて聴くと、ベースとは随分と地上的に低い音で規則的にリズムを刻むものだ。そこへ、高度自由自在、色彩も七変化のボーカルがからむ。ギターもすばらしい旋律でたくさん入ってくるものの、ボーカルとベースの関係ほど親密ではない。歌詞は痛々しい過去の傷を想起させる内容になっていて、ことに2曲目「ALL DEAD」でははっきりと、殺意と憎悪と果たせなかった復讐の念が歌われる。

今月14日発売のWhat’s inのインタビューでKen(g)は、11月25日・26日に東京ドームで行われたライブ、“15th L’Anniversary Live”において、「ライブで一度も演奏したことがない」からと、この曲をリクエストしたことを語っていた。kenの希望どおり「ALL DEAD」は、記念すべき15周年ライブにて演奏された。まったくの邪推だけれど、2006年のこの時代だからこそ、この歌の放つ意味が誰かの胸に届くかもしれないとkenは考えたのではないだろうか?

つづく「Blame」では「君を今も想う日々が僕のすべてだとしても」がサビで、一見恋愛詩とも受け取れるが、アルバム全体の流れと声から受ける衝撃から捉えなおせば、「君」とは「僕」の過去の恋愛対象ではなく、まったく逆の相手ではないかと、やはり邪推ではあるが思いつく。しかしボーカルは、その相手を汚すのでもおとしめるのでもなく、激しい想いを込めて全力で歌い切る。それは普通のボーカリストだったら、とうていノドが耐えられない激しさなのだが、まったく破綻を見せず、そのままひとつのスタイルといえるものへ発展している。

しかし歌詞は、決して恋愛詩だと騙そうとしているわけではない。「それは僕のこの足跡をたどれば誰もが解るだろう / 果てない苦痛に歪まれた / 足跡をたどれば」とまで言う以上、解る人には解る過去の事実があるのだ。それでも、目のくらむようなこの時代のこの人の美しさの前では、本人が考える以上に、多くの真実が霞んでしまったかもしれない。

「眠りによせて」は、絵画的で華麗な曲でありながら、身も蓋もなくリアルだ。「透明な夢に眠る / pulling back the hands of time / 壊れてしまった私は 夢に眠る / to the land of the purest / 痛みが和らぐまで 起こさないで」傷ついて瀕死のとき、誰が助けてくれるわけではない。ステキな恋人が現れ救ってくれるなんていうのは、安いドラマか空想の中でしか起きない。唯一救われる方法があるとすれば、世間から離れこんこんと眠ることで、誰にでも身に覚えがありそうな治療法が歌になっている。

「White Feathers」にいたっては、強靭な声帯と、内なるリアルが作り上げたボーカルが自由自在に飛び交うわけだが、歌われているのは「部屋のすみには足をつながれた鳥が 必死に羽ばた」いて、部屋中に白い羽が舞い上がりまた舞い落ちる様子だ。派手に飛翔している歌に見せて、実はそうではないというシビアさ。それでも、聴いている身では、完璧な陶酔を与えてくれる曲なので、そんなことはもはやどうでもよくなる。

再度今の時代にもどろう。
上記What’s inで、そして多くのラニバレポで読んだのは、「最近、歌うことが好きになってきた」というMC紹介で、これ以上祝祭の場にふさわしいMCもないだろうから、観にいけなかった身ではあるものの、めでたいなぁと思った。
これからの彼の内なるリアルは、どんな歌を奏でるのであろうかとわくわくしつつ、何が起きても、ただ真実があるだけだと思えるのだ。

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