リバース、最終回

リバースというドラマをドラ丸で録画しながら毎週見ていた。湊かなえという人気ミステリー作家がおり『Nのために』『夜行観覧車』といった作品がすでにドラマ化され好評を博しているようだ。

両ドラマはわたしの職場でも随分と話題になっていたものだけど、あいにくとテレビがなかったので見てはいない。そのことを後悔させてしまうくらい、『リバース』が傑作すぎて、最終回を迎えもう見れないのが悲しい。

しかし、ドラマには必ず最終回が巡ってくる。特にミステリーの場合、「犯人」「動機」「殺害方法」といった真相が、名探偵の名推理のもと明らかにされるのが定石であり、ここでどんでん返しが起きたり、こいつが犯人だと思っていたのとまるで違った意外な人物が犯人だと知らされて、視聴者は驚愕の真実に息を呑む。

ところが『リバース』の場合、この定石を稀有な形で外れていた。というのも、本来最終回にくる驚愕の真実が、毎回毎回(全10話中、7話か8話くらいから)ラストシーンにやってくるのだ!! なんとも贅沢な真実大放出に、嬉しいやら驚くやら。

たとえばゼミ仲間の四人で卒業アルバムをめくるシーン。卒業アルバムには写っているはずもない人物が、けれども深瀬が「心の奥底で予感」していたという人物が写っていた。見ているこっちはまるっきり予感してなかっただけに、えっ!! と驚いたのなんの。

9話のラストシーンは輪をかけての驚愕の真実だった。深瀬が瓶のラベルを見て「……**…」と呟くシーン。瓶のラベルを回す間にさまざまなフラッシュバックが起き、その間、見ているこちらも「あ、ひょっとして」と真相に気付き始めるわけだが、それが確信に変わるまでの時間の、ほんの少し先くらいに「**」という文字があらわれる。この時間が、まさにスリルの3文字。

ここらへんの演出には匠の技を感じた。

演出も演技も匠すぎて、ここらのシーンは5回か6回は見直した。特徴は、エンディングロールがすでに下に流れてるのに明かされるという、まさかのタイミング感と、全部で5~8?種類くらいあるシーンに応じた音楽がばつぐんの効果を発揮してること。そしてここが肝心なんだけど、驚かせるための驚きなんじゃなくて、その背景に人の心の動きがあること。それが胸に迫ってくるから、時間を巻き戻して見直したくなる。(主題歌視聴←運命が不吉に盛り上がる)

そういう流れなので、実際の最終回は、明らかにされる真実というよりも、それぞれの心の動きを確実に納めるところに納めた内容。ことに、息子を亡くした母の悲しみと荒ぶる怒りにはもう涙涙涙。思えば、すべての始まりはこの母の悲しみと怒り。これがみなを真相に向け突き動かした(しょぼいドラマだとここらへんが省略され、見栄えのする若者ばかりが出ずっぱりになるので、よくない)。あと、静かに悲しみと寛容を見せたお父さんも。「(息子の命日という日付に)こだわらずにおいで」と言ってくれたのは、彼ら四人を息子の代わりになるくらいの人生の貴重な出会いとして認識してくれた、ということだと感じられて、いいセリフだなぁと思った。

ところで、そんなで涙涙でいたところ、他の人がどう思っているのか知ろうと リバース – みんなの感想 – Yahoo!テレビ.Gガイド [テレビ番組表] を見た。共感する内容が多かったが、中に鋭い反感を記している人もいた。「アレルギーを舐めんな」と怒っている感想だ。アレルギーに詳しくないわたしにそういう視点はなかったが、自身もアレルギーの人にとっては怒りすら覚えた最終回だったようだ。これによって、わたしの感想も少し変わった。

一番残酷だったのは広沢なんじゃないか? と。

そういえばこれ、ちゃんと伏線はあった。広沢を唯一ディスった元彼女のセリフ。「みんな見たいところしか見ないから気付かないけど、誰にでも優しい広沢先輩は(誰よりも一番)ひどい」(大意)

あんなに魅力的で愛される広沢が、一番ひどいって。

ここがReverse――反対、(コイン・メダルなどの)裏面――としての妙味なんだろうなあ。いいと思った事が、別の見方では悪い。悪いと思った事が実は良い。みたいな。

それでも「そういうこともある」と思う。広沢も自分の事情を告げなかったのは悪いけど、告げなかった理由らしきものを恋人の越智に語る形でドラマ中で描かれているわけだし。正しい行為としては、みなに告げて置くことだけど、それをしなかった、しない人もいる。そういうこともある。

その一方、四人のやった罪は罪。悪は悪。酔った友達に運転させたり。証拠隠蔽しようとしたり。ここらに揺るぎはない。

でも、役者の魅力が発揮されるのはこういった悪を演じている時。最終回では、悪から脱して、日々の暮らしの中に穏やかに平常心で帰っていくために、それぞれが一歩を踏み出した。キャプテンが浅見の授業に現れたるシーンとかホッと安堵したし。そのぶん、四人の人物の魅力度は後退する。そこが不満要素になることもあるけど、ドラマとしては優れたものになった。

好きなシーン:広沢の恋人越智美穂子が広沢の三回忌に、広沢の死の直前に一緒だった四人を遠くから眺めるシーン。四人が広沢の何だったのか、四人が広沢とどういう時を過ごしたのか。自分の中に広沢がいるように、彼らの中にも広沢がいる。広沢に飢える心が彼らに向かわせる。この時の四人は、償いもしてないし胸苦しい状況なんだけど。悪の中にいて、償ってもいなくて、その陰が彼らを魅力的に見せている。

美穂子も、まるで希代の悪女のように妄想させて、日々を生きる普通の女性だった。10話と言わず11話まであったら美穂子と深瀬君の新生活が見れたろうに。ああ見たかった。恋愛ドラマとしても楽しめてグッドだった。

金曜ドラマ『リバース』|TBSテレビ

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