彼は仔猫である。名前はきっとない

「縁側の下に猫がいたよ、コネコが二匹」

一週間くらい前に娘が言うから それでどうしたの? と聞くと

「お兄ちゃんが野良猫に餌はやらない方がいいとネットに書いてあるからやらない方がいい、っていうからあげなかった」

とややこしく教えてくれた。野良猫に餌をやらない方がいい理由とは何なんだろう? いくらネットに書いてあるからといって、冷たすぎないだろうか?

少し詳しく聞くと、餌目当てにどんどん野良猫が集まって近所迷惑なことや、糞害などを挙げていたのでもっともではあるのだが…

☆ ☆

そして今朝、庭を見たら、仔猫が一匹、枯れ草を相手にじゃれたり転がったりしていた。両手でフワッとつかめそうな位小さい、薄い茶色の仔猫。

しばらくしてどっかに行ってしまうまで、目が離せなかった。

「可愛かったなあ」と思いながら朝ごはんを食べていると、T・Tが水でも飲みに来たのかダイニングキッチンに入ってきて「おはよう」と声をかけてきた。

お?

この一月近く、奴とは口を効いていなかった。つまらないことで口喧嘩になり、それ以来顔を合わせることもなくなった。親の作った食事もとらず、どっかで買ってきたものを食べている。何年か前なら心配になってこっちから折れたけど、彼ももう大人の年であるから、放っておいた。

放っておいたと言っても、同じ屋根の下に住んでいるので、完全無視は難しかったが、向こうがそうしてきたのでこっちもそうした。

そのT・Tが今朝は、猫の話しにのってきてホンワカといろいろ話しをする。〝実は仔猫は三匹いて、一匹は薄い茶色、一匹はまだらの黒、一匹は毛足が長くペルシャ猫のようだ〟と。〝親猫は顔がやつれてげっそりしていた〟と。そこへ、〝縄張り争いかなんかで、大型猫がうちの庭に入り込み、親子4匹にちょっかいを出していた〟と、話す。

「でかい猫に、仔猫が毛を逆立てて立ち向かっていたよ。敵うわけないのに。」

先ほどの薄茶の仔猫だろうか。

T・Tは台所にたって何かし始めた。食器棚から平皿を出したり、「皿はやめるか」と再生ゴミのプラスチックトレイを引っ張り出したり、「これじゃ軽すぎるか」と右を向いたり左を向いたり。

もう大人の年であるからわたしは手伝いなどはせずに、「また来てほしいねえ」と話しかけたのだけど、やつは聞いてなくて、縁側と台所を行ったり来たりしていた。