ヤクザと家族(ただいま上映中)
人はなぜヤクザになるのか。この根本的な疑問について本編では二つ事例が示された。ひとつは冒頭、原チャリで葬儀場へかけつける白いジャンパーの若者。若者たって爽やかな好青年ではない。明らかにヤンキー、グレてる、やさぐれている、正規の若者ルート(進学など)からのはぐれ者。
白ジャンパーが荒々しく駆けつけた葬儀場で弔われていたのは当人の父親だった。そしてこの父がヤクザであること、それゆえに死んだことが、葬儀場の先客によって明かされる。先客は白ジャンパーに「ケン坊」と馴れ馴れしく話しかけ、いかにも面白そうに教えた。このイヤラシい男は最後まで終始一貫して登場するのであるが、マル暴の刑事だ。
その後ムシャクシャした白ジャンパーは偶然ヤクの取引現場を目撃してしまい、カッとなって売人に殴る蹴るの暴力を浴びせた。おそらくは白ジャンパーの父も、ヤクがらみで何かあったのだろう。ヤクへの憎しみが正気を失わせた、と思わせる暴力シーン。(わたしは一回見ただけでは把握しきれなかったけどこちらソースを見たら「1999年、父を覚せい剤で亡くした」とあった)
その時ついでに売上金とヤクの入ったポーチを奪い仲間2人と山分け。こんだけの金があれば何が食える? 焼き肉食い放題? と喜び、ヤクの方は海に投げ捨てた。しかしこのままただですむわけもなく、売人は自分らの組のもんを連れて報復にきた。またまた執拗な暴力。あげく臓器を売り飛ばされそうになるところを、ポケットに入っていたヤクザの名刺が白ジャンパーたちを救った。
強く見えた「ケン坊」だが暴力が平気だったわけではない。父を失ったことも平気だったわけではない。怖かったツラかった苦しかった。でも後には引けなかった。
結果的にこれの成り行きでケン坊こと山本賢治はヤクザの世界に入っていく。単にヤクザへ就職した、というようなものではなく家族関係の契りを結ぶのだ。盛大で正式な儀式も行う。組長のことは親父、先輩のことは兄貴と呼ぶ(呼び方についてはコミカルにあとでまた出てくる)。会社に雇われるような人生時間の切り売りや、魂の小出しの提供ではなく、全身全霊でそこ(組)へ属する。
そうやってヤクザになった。
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もう一つの事例を見てみよう。
もう一つの事例はケン坊がヤクザになった20年ほど後になる。
時代は変わり、ヤクザを社会から排除する法律が整備され、もはやヤクザがこの社会で生きていく隙はなくなっていた。
そのため、20年後の若者~ケン坊よりも垢抜けてスマートな翼。子どもの頃から山本とは家族同様の付き合い~は、「ヤクザなんかいまどき金にならねえよ」と割り切っており、自分をヤクザと称してはいない。
といってもやっていることはヤクザと同じ。たとえば金を払わないバーの客を店に頼まれて脅すなど。
バーの立場にしてみたら、頼む相手がヤクザだった場合、暴力団排除条例によって罰せられるのだから、翼がヤクザを名乗っていてはまずい。
そういう理由でヤクザと名乗らない、というのもあるだろうし、ヤクザを時代遅れと思っているのもあるだろう。
ただ、あれほど子ども時代に熱心に明るく勉強していた翼が道を外れてしまったと知ったときは、ちょっとショックだった。やはり、よほどのやむない力学が働いてしまうのだと思う。
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本編とは離れるが、検索したらヤクザになる理由として「彼らがヤクザになった理由 過酷な環境にいた少年たちを、社会は本気で救おうとしたのか(1/3) | JBpress(Japan Business Press)」をみつけた。ヤクザといっても、派手派手しい抗争ばかりをしているわけではなく、地味な裏家業でしのいでいるヤクザも多いそう。また、ヤクザになっていく人は過酷な少年時代を送っていたりする。
そのヤクザを社会全体で排除しようとする法律が2011年にできた暴力団排除条例だ。
これについて自分も2011年ブログに書いたことがある。(激論!暴力団排除条例と社会の安全(朝生))
この番組でもっとも熱烈に暴力団排除を支持していた三井氏の背景を調べたら、2019年に亡くなっていた。(訃報:三井義広さん 67歳=弁護士 /静岡 – 毎日新聞) 三井氏は、暴力団事務所追放運動で住民側弁護団長をしていた1987年に、暴力団員に刺され死ぬところだったようだ。
今回もまた暴力団員からみでないと良いが・・・・と思ったら病死のようであった。
三井氏の「暴力団を撲滅しないとダメ」と強い語気で語っていた声は、今も覚えている。
ただ、それほど強く、暴力団を撲滅しないといけない説得力を感じなかったのも、確かな番組ではあったのだ。
なぜ暴力団に入ってしまうのか、その理由がなくなるのでない限り、形を変えて暴力(団)はいくらでも現れるだろう。
しかも、団(組)がもつ家族の役割がなくなってしまうとなると、世の中、ますますどうなってしまうのか。
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なんだか、映画と離れすぎてしまった。
けど、もちろんもちろん映画は本当に良かった。
どのシーンも良いけど、頭に浮かんだ順番で3つだけ言うと、兄貴が腕時計~たぶんロレックス?~を貰ったシーン。大物感のなさがリアルで本当に嬉しそうだった。朝食を食べるシーンは名場面過ぎて語りたくない。14年の刑期を終えて柴咲組に戻ったときの、親分の声の小ささたるや。本当に物哀しかった。
ともかく、みなさん、観ましょう!!