夜想曲集 — 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 — / カズオ・イシグロ

≪感想文連載第1回≫

夜想曲集この本を最初にみつけたのは、6月の終わり頃だった。
たまには買い物でもと、駅前まで行った日。
駅前の本屋「ビギニング」に寄ったらすぐに、平積みになっているのをみつけた。
その時は「イシグロの新刊出てる!!んな話し聞いてないよー」と、一瞬ものすごく嬉しくなってすぐに買おうと思った。のだけど、よく見ると長編ではなく短編集らしくて、わたしとしてはイシグロの本はトグロを巻くような長編であってほしく、その中で人と人が優しい思いやりの心を互いに持ちながら、擦れ違ったり行き過ぎたり実は自己本位だったりして頓珍漢な方向へと突っ走っていく様を、いつ終わるとも知れず長い夜の友としながらずーーっと読んでいたい………といった構想でいたから、短編だとすぐに終わってしまうし、小器用にまとめてありそうでイヤだなと、勝手に先入観をもった。


それで、買うのを躊躇った。
躊躇った理由は他にもあって、『夜想曲集』というタイトルの通りこの本は、個々の短編がどれも音楽をモチーフにしている。今までもカズオの本では音楽が重要な役割を果たしてきていて、『充たされざる者』の現代音楽、『わたしを離さないで』の古い流行歌と色々あるけれど、特別ヘンにこだわる風はなかった。それが短編で音楽自体がテーマとなると全面的にこだわりが発露し理解不能なことを言い出していたらイヤだな、と心配になった。下手な音楽評論家のように、どういう根拠があるのか知らないが「世界最高の**」だの「上質の**」と他の音楽と比べての優越性を押し出す、ああいういやらしい文言を目の当たりにしたくなかった。いや、他の人がやるのはさして気にならないが、イシグロにそんなものを書いてほしくなかった。
以上ふたつの心配からその時は買わずに帰った。
しばらくして、ポツポツとネットで『夜想曲集』について語られているのを見て、やっぱ読みたい!!となったため、オンラインで注文した、という次第だ。
と、いうことで五つの短編、アッという間に読んでしまった。
わたしの心配は的中していただろうか? それとも的外れだったろうか。
この後、当ブログ特製の資料とともに、見ていこう。

つーことで次回