異形の日本人

以前から「異形」という言葉がこびりついて離れない部分がわたしの頭の中にあって、だからこの本を見かけた時も、他人は何を異形とみなすのかと興味を持った。この本では全六章を費やし計六人(そのうちターザン姉妹は組み)が異形として紹介されていた。異形と称される根拠は、路地(被差別部落)の出身であることや、やっていることがユニークであるにも関わらずマスメディアが取り上げない、もしくは数奇な運命の持ち主、と言っていいかと思う。

1.類人猿のような姿態の”ターザン”姉妹
2.差別を描いて封印された漫画家『血だるま剣法』平田弘史
3.孤高のやり投げ選手 溝口和洋
4.医師の猥褻行為と裁判で戦い続けた生涯を持つ女性
5.股間から火を吹く芸で知られるストリッパー
6.伝説の落語家 初代桂 春団治

中で4.の女性は「異形」といっては気の毒な気がしたのだけど、しかし著者は異形の者に愛情をもっているので、著者にとってはむろん悪口ではなく敬意の表現なのだ。この女性、西本有希さん(故人)のことを検索して調べると、西本さんを古くから知る人のブログ記事「西本有希ちゃん、さようなら」をみつけた。幼い頃から長く生きられないことを宣告されていた西本さんに、無意味な作業を押し付ける教諭に対して、西本さんがきつい言葉を放ったエピソードなどが語られている。けれどその言葉が何だったかは明かしていない。
溝口和洋というやり投の選手の話も無類に面白い。末端の筋肉を鍛える、という独自の理論に従って、誰の指導を受けるでなく激しいトレーニングを積んだそうだ。ちょっとしたダイエットでも科学理論に影響されて右往左往するのが現代だから、これだけやれるものなんだと感心した。
5章の花電車のファイヤーヨーコは、読みながらお股がモゾモゾクニクニするのなんのって。こりゃあヤバイワ。男性自身が入ってしまったらバキッグシャと折れるのではないかと心配になるけど大丈夫なんだろうね、そういう時は。
世の中が大学紛争とか全共闘で一色だった時に、大学どころか中学もろくに行けなかった経済的精神的困窮の中、部落差別糾弾的に描いた漫画が、当の被差別部落の人の怒りを買うというあまりに皮肉な運命を背負ってしまった平田氏。今となっては平田氏、なんとも穏やかでかなりの人気者になっているのが検索すると分かるけど、当時はつらかったろう。
こうしてみると異形の人とは、多数派的な日本の基準から外れながらも、犯罪者のような道の踏み外し方をするのではなく、自分の生きる場所と方法を自分らしく築いた人だ。基準に無理に合わせたり、自分を曲げたりせずに、自分の編み出した方法で社会と関わった人だ。
本書の中の、故人となった人にはありがとうと。そうでない人には、どうかうんと長生きしてくださいと、言いたい。