ある夕の記

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halloween3.gif今日は夕方から美術教室だった。
注文していた絵の具と筆が、ちょうど午前中に届いていた。
教室でわたしが描きかけているのは、台風が西の空を通り過ぎていった日の空と大地だから、大量の白、黒、灰色の絵の具を使う。間に合ってよかった。
教室にはわたしが一番に到着した。10分くらい開室まで時間があったので先生と野菜や魚の放射能汚染が心配で食べられない話をした。先生は先日個展を開き、見に来てくれた福島出身の人とひとしきり仲良くなった。最後にその人がリュックからなめこの缶詰を取り出して贈ってくれたという。なめこは福島産なのだけど、製造時期が分からない。どうしよう?せっかく頂いたのだけどと笑っていた。
台風の雲の絵は、いざ描き始めてみると、雲にはフワフワと綿菓子のような部分とフワフワはしていない複雑な文様の部分があってひどく難しい。それに、やや赤みのさした白い雲の色や、黒に近いブルーの混ざった暗雲の部分など、どう混色しても似た色になってこない。
何度も描き直しているうちに、雲というよりも空に巨大な壁が浮いているような、下手クソなルネ・マルグリットもどきになってきた。
しばらくして先生が
「雲もいいけど、手前の車にも色置いていって」
と指導してくれた。
わたしが雲ばかりに固執して、全体をとらえ損なっているのでそう言ってくれたのだろう。
わたしは素直に「あそうですね」と言って車の方に取り組み始めた。
そうしたら、車ってやつも難しいのなんの。
手前に停まっている車は銀色で、斜めに停まっているから、ヘッドライトやバンパーやボンネットも全部斜めに角度が付いていてひどく描きづらい。あれこれ描き直すのだけどうまくいかなくてねじ曲がった車になった。何度も何度も塗り直して、最後はもうべたっと四角く灰色を置いていた。
そこは駐車場なので車は一台ではなく奥へ向かって何台も停まっている。
何台あるのか数えても、写真が小さいのでよく分からない。
ただ、どの車もなぜか銀色で、空の色も灰色だし、駐車場の地面も灰色だしで、灰色ばかりなのに今更気がついて、明らかに駄作が生まれそうな予感がして、赤い車も足す事にした。
奥に行くに従って車が小さくなる遠近法だから(それ以外など思いつかない)、どんどん細かくなって描きづらい。しかし、やはり苦心したのは変化の激しい雲だ。
教室の他の生徒が、自分の作業に飽きてわたしのところに見に来た。
「上手ねぇ」とか「雲らしくなってきたわねぇ」とか「すごいすごい、綺麗な色」とほめてくれた。
ほめられると返事のしようがないので、「暗い雲と、向こう側に見える青い空のコントラストをねらってみました。青いさわやかな空は希望の象徴なので、台風のようなつらい出来事があっても、やがて空は晴れ渡り、幸福な生活がやってくる、そんな予言の絵にするつもりです」
と、言った。
…はずだけどそこまで言葉の形にならず、「えーーそお? ありがとう-」という感じで答えていた。