『恥さらし』平成12年4月と8月、北海道警察は覚醒剤130キロ、大麻2トンを密輸した。

(別けてupしていたのを、まとめ・追加しました)
10月に入ってタイムライン上にチラホラと「覚醒剤130キロと大麻2トン密輸・・・警察が」といった信じられないツイートが入りだした。何ソレ? と好奇心にかられ発信元らしき『恥さらし』買ってみた。
何かの間違いだろうと読み出したら、北海道警察は本当に、平成12年4月に覚醒剤130キロ、同年8月に大麻2トンを密輸していた。


著者の稲葉氏は、そこへ至る経緯と事情を詳しく知る者であると同時に、道警銃器対策室の現場の警部として実際におおいに関わった人物。
ただし、「上司の指示・命令のもと」なので、稲葉氏が勝手にやったことではない。
と聞くと、「警察のくせに覚醒剤と大麻を密輸してそれを売りさばき儲けようとした」「警察の人間自身が薬中で自分たちで使用した」のかと思ってしまうが、そういう理由ではない。また、手違いで密輸してしまったのでもない。目的をもって意図して行ったことだ。
その目的が何なのだ? という事が、映画やドラマでしか警察のお仕事を知らない一般人にも分かるように、順を追って丁寧に書いてある。
この目的、先に一言で言ってしまうと、
密輸拳銃の摘発という、手柄をたてたかった。
…となるかと思う。
大の大人が何をやっているのだという子どもじみた話しだが、警察の人間は、各地方の警察同士の競い合いに負けたくないため、なんでもやってしまうのだ。※
そのため、「覚醒剤と大麻の密輸をさせてくれたら拳銃200丁密輸してやる」と持ちかけてきたエスの岩下の言いなりになってしまった。
ちなみにエスとは「スパイ」の頭文字。銃器の摘発には暴力団関係者や裏社会で生きる人間とのつきあいが必須で、そうでなくては拳銃の摘発など一丁もできないという。そのため彼らを情報提供者として使いこなさなくてはならない。これはどの刑事もしている。
ドラマや映画だとこういう「現実」の側面は描かれていなくて、才能ある刑事(ヒーローともいう)が名推理や直感で当たり前のように拳銃のありかを探り当てるが、現実には、拳銃をそこらに置き忘れるような奴がいるわけがない。実際は、知っている人から情報をもらわなくてはならないし、情報は只ではない。
なのでエスとは日頃から付き合いを密にし、時に飯を奢ったり職を紹介する。稲葉氏の場合は人情家肌であると同時に仕事熱心でもあったから、エスに金を貸してやることもよくあった。お互いに利用し合う関係とはいえ、エスから「親父」と慕われる存在にもなった。
ただ大問題がある。それは、エスとの付き合いに膨大な金がかかるということだ。
本来その費用は「捜査費」として署から出なくてはならないところ、ほぼまったく出ないという。
だからといって各都道府県の警察署に中央から金がこないのかというとそうではなく、実績等に応じて出る。しかし捜査費は出さない。出さないで「裏金」としてプールする、というのが常態化している。
(ここら裏金問題というテーマもあるようだが本書のメインテーマとは違うため今は触れない)
また「ノルマ制」という大大問題もある。
課せられたノルマ、銃器課ならば「今年は拳銃の摘発、○○丁」などのノルマがあり、面目をかけてノルマを達成せんとする。ごく一例を挙げると、平成2年は暮れになっても北見署は鳥取署と並んで拳銃を一丁も摘発できないでいた。それもそのはず。北見には暴力団の抗争事件などないし、本当に一丁も存在していない地域なのかもしれない。しかしおそろしいことに、警察機構ではそんな実際の現実は考慮されない。そのうちに先に鳥取署から一丁出てしまい、「このままでは体裁を保てない」と焦った上司は、稲葉氏に命じて「クビなし拳銃」を出させた。
クビなし拳銃とは持ち主を特定できない拳銃で、そんなのでいいならいくらでも自前で調達してコインロッカーにでも入れておいて、それを発見したことにすればそれで「検挙」という事にできてしまう。そういう度を超えてばかばかしい拳銃なのであるが、ノルマ達成のためならばそれでOKなのだ。しかもクビなし拳銃は、平成5年以降は警察庁の方針転換があり、むしろ奨励されるようになってしまった。
それゆえ、警察は組織をあげて「虚構の捜査」に邁進していくことになった、という。
☆ ☆ ☆
その「虚構の捜査」、笑い事じゃないのに笑ってしまう話しで、滑稽というか喜劇としか言いようがない。強面(こわもて)の警察官達がひたすらメンツのために臭い猿芝居をする。あそこに一丁、ここに一丁と自分で置いておいて(置かせておいて)発見する芝居。その「検挙数」で各署が競い合っているのだから。
(クビなしの他には「自首減免制度」というナンセンスなやつもある)
「そんな下らない事に税金を使うな!!」という市民的怒りの前に、これはシュールな現代文学のようだと思えるし、映画にしたら前例のないタイプの警察映画ができるとキャスティングを考えてしまう。(不謹慎な話しだが、本書にはそういう読み応えがあるのである)
稲葉氏はもとは柔道家であり屈強なオトコだから役者選びが難航するだろう。
けれど、いくら滑稽な話しが満載でも最初からギャグ映画にしてしまったら違う。道警はいろいろな事をやっているが例えば密輸拳銃を摘発した事にしたいがためにロシア人の船乗りに罪をかぶせ、それを裁判でも押し通そうとしている。
「警察は保身のためなら平気で嘘をつき冤罪を作り上げる」というのは、どうやら本当の本当なのだ。それは、とうていギャグでは表現できない。
■年表

  • *平成07年(1995年)2月、原田氏(当時58才)退職
  • 平成07年(1995年)全国の警察に「銃器対策課」設置
  • 平成09年(1997年)道警、囮捜査と称し、ロシア人船員逮捕(犯意誘導型の違法捜査)
  • 平成12年(2000年)4月、8月、北海道警察、税関も抱き込んで覚醒剤、大麻を密輸
  • 平成13年(2001年)夏、稲葉氏自暴自棄になって覚醒剤に手を出してしまう
  • 平成14年(2002年)7月、稲葉氏のエスで弟のようにしていた渡部真が札幌北署に出頭し、稲葉氏の覚醒剤使用を告発
  • 平成14年(2002年)7月10日、稲葉氏逮捕
  • 平成14年(2002年)7月、密輸の時の上司の一人が自殺
  • 平成14年(2002年)8月、渡部真、札幌拘置所支所内で自殺
  • 平成15年(2003年)4月、稲葉氏に札幌地裁判決(懲役9年、罰金160万円)
  • ***
  • *平成16年(2004年)3月原田氏の同僚?の斉藤邦雄氏、道警裏金不正を実名で告発
  • *平成17年(2005年)原田氏、出版
  • 平成23年(2011年)9月、稲葉氏刑期満了
  • 平成23年(2011年)10月、本書の出版

*マークは、本書の構成には直接関係はないのだけども、後で知った知識でプラスしてみた。
***このあたり、稲葉事件をきっかけに「銃器対策課」は姿を消す
参考になるオススメニコニコ:
ニコ論壇in北海道「覚醒剤130キロ『密輸』の真相~元道警釧路方面本部長生出演!~」 2011/10/21(金)
この論壇は、『恥さらし』を読んだ人にとっては大変に嬉しい企画になっている。
本書中に三回ほど登場し、解説も寄せた原田宏二氏(元北海道警察釧路方面本部長・「市民の目フォーラム・北海道」代表)が登場するのだから。
原田氏は、稲葉氏の道内での移動のうち、三回上司になっている人。
しかも、警察にこんなに優れた(というのか、まっとうな心の人)がいたのかと驚かされる人。恥さらし、読んでいて暗澹たる気分だったのに、光がさした気分に。
ただ、あらためて自分で年表作ってみて、原田氏が退職してしまったのが、全国の警察に「銃器対策課」が設置された平成7年と分かった。この年、国松孝次警察庁長官が狙撃される事件が起きたことをきっかけに、拳銃摘発のゲキが飛ばされた。
それ以後「虚構の捜査」が当たり前になっていくのだが、こうやって、現実は時に予想外の出来事を起こす。
まさか警察庁長官の狙撃が警察のやらせのはずはないから、現実がときおり、とんでもないことをやらかすのだ。
何か起きるとヒステリックに反応し、何か起きる前の予測をもっての理論的な行動をしないのが、日本国というか組織の特色のようだ。そのくせ、警察も検察も、ストーリーとか筋書きとかを勝手に捏造し、それに沿った捜査を貫き通し、フィクションを現実ってことでゴリ押してしまうのだから、どういう脳構造なんだ。
ここらに関して原田氏は、
「わずか、1年半から2年しか現場についていない、現場を知らないキャリア官僚のわずか600人が、日本全国の警察機構のトップとしてすべて決定してしまう」と、現在も続く警察の構造を批判していた。
kunio.jpg最後に、ニコニコ論壇でとても印象に残った話しを。
原田氏は、自身も警察を告発する本を出版している。
「警察内部部告発者」(2005年)、「警察VS警察官」(2006年)、「たたかう警官」(2009年。「警察内部告発者」を改題したもの)
「警察内部部告発者」は<130kgの覚醒剤、大麻2tの“密輸”…黒い拳銃捜査の果てに辣腕刑事だった元部下だけが、なぜ、逮捕されたのか。警察庁を頂点とした組織的な「裏金作り」の全容と、警察キャリアたちに抑圧される現場警官の苦悩に迫る!警察が隠蔽する史上最大のスキャンダル!ホイッスル・ブロワーが封印を解く>
という、稲葉氏が当事者として関わった事件をふくむ、警察の腐敗をホイッスル・ブロワー(内部告発者)として広く世間に知らしめる勇気ある出版だった。
けれどニコニコで「警察内部部告発者」の事を尋ねられた原田氏は、勇気とかそういう言葉のものではなくて、同僚(だったかな?)で、やはり問題意識をもっていた「斉藤邦雄」氏が、先んじて『くにおの警察官人生』を出したから出せたと、説明していた。さらには、後押しするように、北海道新聞が『追及・北海道警「裏金」疑惑』というのを出してくれた。こういった一連のことがあって、内部告発に踏み切ることができた。だから自分一人の勇気ではない、という意味のことを言っていた。
☆ ☆ ☆
追記:
覚醒剤130キロがどれくらいの量なのか、
一回の使用量が0.1グラムであるから、130万回分の量。
あれだけ、「ダメ。ゼッタイ。」と薬物乱用防止キャンペーンを、義務教育から熱心に展開しているのに、何をやっているのだ?
しかも厚労省とならんで警察庁も所管官庁に名を連ねているのに。
むろん、違法薬物は体と心を実際むしばむ。
で、たぶん、警察はこのことを認めてないのだろうし、謝ってもいない。
謝るというか、誰も裁いていない??? 
覚醒剤130キロ、大麻2トンを密輸して、それが放置でいいなら、もう国家もヘチマもないや。
(※文中の、※の部分は、メンツのためばかりでなく、裏金ほしさ? かもしれません)