【日記】三月四月の年度替わり。二年ぶりに思い出した春
末次郎、入学
末次郎の大学入学式だった。
7年前に7才年上のタックンの大学入学式にも行ったけど、タックンの場合はどう考えてもガラじゃない「経営学部」なんか選ぶものだから、一年もたたずに中退と相成ってしまった。あんま言いたかないけど、入学金やら何やらパー… それ以前に本人の進路やら将来やらがどうなるんだーという問題も。
そんな成り行きを脇で見ていたせいか、末次郎は地元の、それも適性のありそうな職業につながりそうな学部を選んでいた。
そういった意味で今年の入学式は、めでたいめでたいと単純に喜び、何を着て行こうかと早くから準備していた。
服はまず自分のを選び、次に末次郎の「スーツ」だ。だいたい、大学生の入学式にサラリーマンみたいなスーツってどうなの? と疑問が浮かびはするが、肝心な末次郎がスーツスーツなのだから、しょうがない。
それに高校の卒業式で、「青山」のパンフを貰って来ていて、半額チケットまで付いていた。
なぜか末次郎はその半額チケットをまるで母校の戦利品でもあるかのように、誇らしげに喜んでいて「半額、半額」と浮かれている。よほど日頃のわたしの愚痴がストレスなのだろうか。少しは「お金ならある」と余裕を見せるようにしなくては。それで末次郎の顔を立てる意味でもせっかくだから半額チケットを持って「青山」に一緒に行った。
それが三月の終わり頃ですでに遅きに失したのか、等身大の亀梨クンの後ろに並んだスーツはかなりお高い物で、しかも、半額対象品ではなさそうな雰囲気で吊されている。店員はひどく忙しそうにしていて、声をかけるのもはばかられる、というか、成り行きでこの半額になったとしても高額なスーツを買う羽目になるのをおそれ「なんか、あんまいいのないね」ってことで、外に出たのだった。
こうなると頼みの綱は楽天だ。調べると、「お兄系スーツ」なるものがトップに出てきて、黒いYシャツに銀のネクタイとか、黒いネクタイに髑髏のネックレスだったので、ぶっとんだ。末次郎に面白がって勧めたら「ちゃらい」とか言って拒否反応だった。ただ完全なる拒否反応ではなく微妙なニュアンスがあった。ちゃらい男子ばかりの高校で、合わずに苦労していたから、複雑なんだろうと思う。
そんなこんなで、楽天は意外と当てにならなかったため(どうがんばってもお兄系スーツばっかなので)、他を探すと「スーツセレクト」という店があり、身長の他に「スリムか余裕か」って尺度でサイズを選べたので、それにした。18000円くらいだった。ただし、ネクタイやYシャツはスーツセレクトだと高いような勘が働いたので(スーツを着る職業の人間が家族にいたことがないので、よく分からない)、ついついやってしまう「ついで買い」を自制し、街場に出ることにした。この事はとても良かった。末次郎とまた一緒に外出できたからだ。
それにしても末次郎はいつ反抗期が来るのだろう? 今のところあまり反抗されていない。タックンの時はしばらくの間すごかったけど…。兄のああいうのを見ているから、妙に賢くなってしまったのだろうか。
街に出ると、けっこう格安のスーツの店があり、「青山」と「コナカ」しかないのかと思っていたら違っていた。3000円位を覚悟していたネクタイが1000円以下で買えた。しかもYシャツさえ980円のがあったので迷わずそれにした。こういうのが「デフレ」ってやつなのだろうか。もっと値段が高くなくては、経済が、日本が……なんてことはみじんも考えず、自分の買い物上手さ加減に得意になった。
その後は、花屋に寄ってみたり、サーティーワンでアイスを食べたりした。陽気がよかった。
末次郎はちょっと上の空で、でも楽しそうに付いて来た。
式当日。若者たち
桜がちょうど満開だった。思えば、桜の花を落ち着いて眺めたの二年ぶりってことになる。
昨年は、それどころではなかった。
式では学長をはじめ、数人のお偉方というのか、教授というのかが、壇上に上がり話しをした。いつもなら、退屈きわまりない儀式であるけれど、ちゃんと聞いていられた。というか非常に耳を傾けさせるものがあった。
壇上の先生によると、昨年は卒業式も入学式も?行えなかったそうだ。なにせ震災があったし、被災地の東北からの学生が全体の18%在学していて、安否確認が完了するまで大変だったそうだ。また、その後は、学生達が被災地におもむきボランティア活動を行った。家の泥を掻き出すという、大変な作業だったようだ。壇上の先生も石巻に学生達の様子を確かめに赴いたところ、その時は体育館で、アルバムの写真を一枚一枚拭き取り乾かす、という作業を行っていた。きれいになった写真は、受け取りに来る人を待ち、壁に並べられた。この大学、モットーは一言で言えば「人間愛」で、例年、学生達に人間愛をどう教えようかと悩んでいた。しかし、被災地のために献身的に働く姿を見て、「教えることは何もない」と思うほどに頭が下がったそうだ。