「景気回復だけじゃブラック企業はなくならない」という対談記事を読んだ。てっきり不景気のせいでブラックなのかと思ったら、違うらしい・・・

『ブラック企業』『ブラック企業2』書いた著者

景気回復だけじゃブラック企業はなくならない | 今野晴貴

2012年に『ブラック企業』、今年3月に『ブラック企業2』を出版したPOSSE代表今野氏と、シノドス編集長・荻上氏との対談だ。

一万字以上もある長文記事なので読み出すの億劫だけど、意外と苦痛感はなく読み進められた。

ブラック問題を言い出すと当初は、安易な「そんなところ辞めればいいじゃん」との反応が主流だったが、最近はコマが一歩二歩と進んでいる様子がうかがえた。
今野氏が成果として大きく挙げたのは、2013年8月、当時の厚労大臣が記者会見で、「ブラック企業は問題であり、政策を打つ」と明言したこと、だという。
政治の舞台にのったのは、本当に大きな成果だ。

余談だが、不肖自分も17年前に色弱サイトを始めあーだこーだと国のとっている教育態度を批判したものだが、それだけでは何も変わらない。
具体的に変わったのは、いろいろな働きかけで、とある政党が動いたからだ。政治家の力は、ほんとうに強い。いくら不満をネットで言っていても、ガス抜き程度でしかない。
(政治うんぬんとは関係なく、言葉を模索したり積み上げていくことや、言語化によって現実を構築していくことはイコール生きることでもあるので、もちろん最重要なことではあるが、複数の利害が絡み合い拮抗しあう社会だから、それだけで何かを変えるのは難しいのだ。)

政治を動かしてこそ、変化の射程に入ったといえるはずだ。

ちょうどその間に、若者の「使い捨て」が疑われる企業等に対する取り組みを強化すると厚生労働大臣が8月に記者会見を行い、9月にその取り組みが実施されます。2014年には過労死等防止促進法が成立し、勤労青少年福祉法の改正でブラック企業対策の法律が制定に向かっています。

ブラック企業の何が問題かを一言で明快に言うなら、「新卒の正社員を使い潰して利益を上げるという方法論が広がってしまい、過労やパワハラによって、体を壊したり鬱病になる若者が増えている」ことだと言う。

どうしてそんな方法論が広がってしまったんだろう?
この記事のコメント欄にあるように、「8時間で成果が出せない低いレベルの人材」だからなのか? だから最近しきりに「経団連が求めるような教育を大学で」みたいなコトを言ってるのか?

けど、理由が何であれ、人を使い潰して利益を上げるという方法論なんかダメに決まっている。
——決まっているというか、ダメである理由を労働力不足問題、税収不足問題、医療費増大問題等々から、きちんと説明していき、経営者や政治家に訴えている氏なのである。

荻上氏が冴えたことを言っていた。

社会運動って、かつては「階級」を前提とした闘争があった。人が生まれながら固定的な役割を押し付けられて、その構造のなかに絡めとられてしまう状況を改善しようという。

ただ最近は、人はいつでも、あるタイプの困難に陥ることがありえるという、「生活モデル」的な運動になってきている。
誰もがいつ困るかわからないという想像力を、今困っている人がいつか困る人たちに対して、どのようにシンパシーを広げていくかという社会運動が、いま各所で広がっていると思うんです。
問題を固定階級化するのではなく、あなたの問題でもあるんだという語りで、個別実践の中で人々の生活を改善していくという。

自分の会社はブラックじゃないからブラック企業問題は無関係、じゃなくて、自分にもつながっている問題としてとらえる。考える。
あるいは、そのようにとらえさせるような、投げかけの仕方っていうか。

だからときどき思っちゃうのは、窮状に陥っている人を見ると(たとえばホームレス)、「あんた、人が困っている時に何も考えなかったでしょう!?生保の人を見てバカにして罵っていたんでしょう、だからめぐりめぐってこういうコトになるんだよ」みたいな。

別に、証拠があるわけじゃないのに、そういう「ストーリー展開」として想像しちゃう時がある。

どっちも同じ想像力を使うけど、想像力は使い方を間違えると変な方へいってしまうので、注意が必要だ。あと、経営者でもないのに「(マクドナルドの)時給を1500円にしたら潰れちゃうよ」とか正論ぶって言う人がいる。そんなことは経営者が自分で考えるよって。なんでそう、経営者サイドの想像力働かせているんだって。よほど強力な労働組合員とかならともかく無力も無力のペーペーのくせに言う。けっこう若者に多い。

経営と両立しないことってたくさんある。たとえば看護。病院経営のことを考えてたら、ちゃんとしたことやれないよ? 放っておけば具合が悪くなるからどんどん薬飲ませちゃえ儲かるし。人権もどうでもいい。どうせ家族だって文句言うわけじゃない(のもいる)んだし。

家族が文句を言わなくても人権は人権。な、わけですよ。経営上不利になっても、人権は人権。な、わけですよ。

残業代ゼロ法案について

話しの後半は景気がよくなったからといって、ブラックはその方法論を変えない、という話しと、「残業代ゼロ」法案についてだ。

上でも述べた通り、ブラック企業は労働者をとことん使い潰すという方法でやっている。ある意味、どんな素人経営者でも思いつくような働かせ方だ。なので、景気の良し悪しは関係ないという。

改善していくためには、

  1. 人権感覚が社会的に浸透
  2. 何かイレギュラーな事態が個人に降りかかったときに、通報する連絡先を拡充する必要
  3. 労働法などのリテラシーを高める取り組み

以上がないと、ブラック企業は生じてしまうと。

また、一時期、超高給取りだけが対象と思われ、それゆえ自分には関係ないと多くの人が思った「残業代ゼロ」法案も、実はいわば「名ばかり管理職」の合法化とのこと。
「名ばかり管理職」は、2014年の総務省労働力調査では、全産業の管理的職業従事者が 142万人、販売従事者の中の営業的職業従事者が342万人だからかなりの人数が対象となる、らしい。

そんなで氏が強調していたのは、「残業代ゼロ」法案は労働力の「定額使い放題」なのだという、恐ろしい話しだった。

また、政治家でも運動の人でも誰でも、『ブラック企業2』におさめたたくさんの事例を、ブラック解消のために使ってくれていい、といわば著作権フリー宣言もしている。

でもって、差別の解消はボトムアップででしかできない、という現実の厳粛さも指摘していた。

何も言わなくても自然に良くなる(もしくは淘汰されるとか、神の見えざる手が、とか、トリクルダウンとか)ということはないし、これからますますそういう時代になる。その代わり、解消を目指すならば、やり方はいろいろある。


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おおまかな説明になってしまったけど、だいたいそういうコトを語っていた対談だった。