となり町で『となり町戦争』買った

となり町の制服仕立屋まで、娘の夏の制服を取りに行った。
となり町の○○駅前は、前に来たときより広くなっていて、バスがゆとりをもってグルリと回れるようになっていた。
ビルも林立し、テナントには美容院やスターバックスやモスバーガーやパチンコ屋やカラオケ屋や居酒屋が入っていた。
帰りのバスが来るまで時間があったので、しばらくウロウロと歩いた。気付いたのは、これだけたくさん店舗があって、駅前なのに本屋とCD屋だけはない、ということだった。
ひどい話しだ。
要するに、ただで立ち寄れる空間は「ない」ということなのか。
そうなるとたちまちこの町がよそよそしく感じる。
そういえば、この町の栄えている様は、どこか不自然な感じだ。
もともとここは、ものの17分で××駅という都心の大きなターミナル駅に出る、腰掛けみたいな地点。
何もここで時間を潰さなくても、××に行くか、さっさと家に帰った方がいい。
でも、××と家の間で、まだ何かを求めて彷徨うなら、ささどうぞ、本屋での立ち読みだけはゴメンですが、それ以外の方法でどんどんカネを落としていってください…

なんかいやな感じ。
しかし、救いはあった。
この町の本屋は、あたらしいビル街ではなく、もとからある駅の構内に、キオスクに毛がはえた程度の広さで存在したのだ。
さっそく入って何冊かの雑誌を立ち読みして、たいして面白い雑誌はなかったが、「75年特集」とかそういうのを読んだ。
音楽雑誌で好きなバンドのインタビューも読んだ。
なるほど、人のhatenaで読んでいたが、写真無しの突貫インタビューだ。
ここでも立ち読み防止なのか読みづらいレイアウトの文字配列になっていて、とても最後までは読めなかった。
なんてせちがらいのだろう。読みやすかったら、ちゃんとお金払って買うのに。

さて、そのうちのどれかを見ていたら、『となり町戦争』の写真が出ていて、買って帰ることにした。

『となり町戦争』がこの本屋にあるかないか、という心配はしなかった。
『となり町戦争』はかなり前から書評でよく見かけていたし、こんな狭い本屋で、まして文芸書売り場が極端に狭いこの本屋では、チョイスの基準は「評判になっているかいないか」しかないだろうから。

案の定、すぐに3冊並んでいるのがみつかった。

本の裏を確かめたら、1400円だった。
高い、と思ったけれど気にしなかった。
本屋で買うとき、「1470円です」と言われ、値段が上がったので一瞬ギクリとしたが、それでもすぐに気分はよくなった。
本屋の店員の女性がすごくステキに見えた。
なぜだろう?
たぶん、この時はじめて、この町で、(『となり町戦争』の言葉でいうなら)「リアル」を感じたのだ。
何へのリアルかというと、この町がリアルになったし、お金がリアルになったし、自分がリアルになった。
一冊の本を買っただけのことだから、自分でも不思議だったが。
こういうことにお金を惜しまないあたしっていいじゃない? と自信すらわいた。

『となり町戦争』が細いリアルの糸になって、今の時代の○○という町で、わたしは息を吹き返した。

となり町戦争

となり町戦争

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