ドラマの中の結婚と離婚

すでに終わったドラマの話だが、数ヶ月前、テレ朝の『熟年離婚』を楽しみに見始めた。

第一回が、橋の設計建築で業績をあげ、皆から尊敬の念も抱かれていたらしい仕事人間の渡哲也が、その日ちょうど定年を迎える、というものだった。

社内の人たちにあたたかく見送られ退職した渡哲也は、退職でめげる気はなく、その日の昼間、さっそく第二の人生とばかりハワイ旅行と英会話教室に夫婦で参加しようと、あちこちの店へ予約して歩いた。

ところが肝心要の妻、松坂慶子は、夫への不満を長年の間に着々と蓄積させていた。いつ離婚と言い出そうかと逡巡していたのである。
まず、その胸のうちを最初に知ったのは長女の高島礼子だった。高島礼子は、夫で自営業者の西村雅彦が、義父の退職金ネライなのもあって、二重の意味でショックを受けた。高島のほかに長男徳重聡、という息子もいて、息子の方はバツイチ年上子持ち女性と恋愛関係にあった。
渡哲也は、予約して歩いている最中に、息子と彼女とその子が3人で買い物をしている姿を目撃し、激怒する。

その夜、家庭で開いた「定年お疲れ様パーティー」の席上で、渡哲也は、息子に「結婚とはこうあるべき」と説教をはじめ、離婚女性をケシカランとけなし、自分たちこそ理想の夫婦であり、見習うべし、と言い出した。
息子は反論し、取っ組み合いになりかける。そのとたん、松坂慶子は
「あなた、わたしも主婦を定年させてください!」と叫ぶ。
何を言われたか理解できず、鳩が豆でっぽうになる渡哲也。
瞬間フリーズする居合わせた娘夫婦、息子、娘ら…

☆☆

以上が第一回。すごかったのは一緒に見ていた娘(15)、息子(11)の反応で、
「おとうさんがかわいそーー!」
「ひどい!! ひどすぎる!!」
「みんなのために、一生懸命働いてきたんだ!」
「ひどいよ、朝には行ってらっしゃいなんて言ってたくせに!」

と、それはそれはもう、怒りくるって大変だった。

たしかに、娘に語った離婚したい理由が
「私はマンション暮らしにあこがれていたのに、お父さんたら、こんな大きい一戸建てを買ってしまって」
というもので、そりゃ夫の専制君主っぷりを示す一エピソードなんだとしても、せまーーい賃貸に住むうちとしては、一戸建てを買ってもらって難癖つけるなんて、贅沢すぎる。
「私はマンション暮らしにあこがれていたのに、お父さんたらパチンコですってばかりでこのボロアパートの家賃も払えなくて借金地獄」
というなら、うん、うん、離婚したほうがいいよ、それは、と思うが。

けれど、離婚したい本当の理由は、ひょっとしたら、娘に語れる性質のものではないこともある。あるいは、語りようのないことも多いはずだ。フカヨミしていけば、あながち松坂慶子を批判できない。
けど、そんなことはうちの子供たちにはまだまだ分からない。

そのため、子供たちから「熟年離婚って言葉をきくだけでいや」と激しい批判をあび、「ぜったいに見るな!」ともいわれ、第二回以降はわたしは見ることはできなかった。

その後、職場の人たちと話をしていると、このドラマを見ている人はけっこういた。
その中には、ちょうど定年年齢の人もいたが、やはり渡哲也の方に同情的な意見だった。
わたしと同世代で、バツイチ女性の感想も「松坂慶子の気持ちも分かるけど、やっぱ気の毒」と、渡哲也への同情票が多く集まった。
その後、前者定年近い女性からの情報によると、
「終わったわよ、熟年離婚、なんてこともなく終わったの。あっちもこっちも丸く収まって、おもしろくなかった」と、手厳しい。
彼女の話によると、離婚は離婚で成立しつつ、渡哲也はブラジルかどこかへ、橋の設計建築に行ったそうだ。松坂慶子も仕事先の男性に口説かれていたのだが、「そのお気持ち受け取るわけにはいきません」とかいって断ったそうで、あくまで「妻でも母でもない自立したひとりの女性」になりたくて離婚したのだ、という大義名分を貫いた模様で、なるほど、それはつまらない。

今NHKの朝の連ドラ「風のハルカ」の母親が、前回の「ファイト」の母親から一歩突っ込んで、本格的に離婚~再婚女性(は脇役なんだが、そっちにしか関心がないので)を演じている。酒井ノリピーに対抗して、過剰なまでの若々しさ、美しさ、ナイスケツで、「そんなおばさんいないよ!」と毎朝叫んでいたりする、自分である。

話は戻るが、ドラマの渡哲也は、第二の人生がみつかったからいいようなものの、大半の男性にとってそういうのは難しいのでないだろうか。定年になって切り出すくらいなら、もっと早く切り出したほうがいいのではないだろうか。
現実はドラマと違う。ドラマは目に見えるものを中心に扱うが、現実の大半は、ココロという目に見えないものだ。あんまりすごいダメージはカンベンしてほしい。

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