脳の中の人生 / 茂木健一郎

脳の中の人生 (中公新書ラクレ)

脳の中の人生 (中公新書ラクレ)

穏やかな幸福の形が具現化したような本で、ちょっとした贈り物などにもよさそうだ。贈る相手は、中高校生でもいいのだが、年をとって物忘れがひどくなって日々嘆いているような、つまりわたしのような人にいいかもしれない。
というのも、忘れることの効用や、退屈の効用、創造が思い出す行為に似ていることなどが書いてあるからだ。

この間まで遺伝子ブームだったような気がするのに、最近はめっきり脳だ。

遺伝子はいろいろなことを決定しすぎてしまうのに対し、脳はそれほどでもない。

遺伝子はものすごく寿命が長いが、脳は個体が生きている間だけの一世代限りのものだ。

ここらへんが遺伝子のすごいところで、脳という、何を考え何を望み何を作り出すか分からないような臓器を作り出す道へと動いた。脳という臓器を作り出す指令は出しても、脳が何を考えるかまでは指令できないのに。自己の恒久存続だけを目的とする遺伝子にとって、すごい賭けだと思う。ことによれば、脳はみずから(種全体や生命全体)を滅ぼすかもしれないのに。

脳は遺伝子(命)にとって、大きな賭けであり遊びなのだ。

そう考えると、ヘルマン・ヘッセが半世紀前に詩*1に託した「
人間は動物ではない /
人間は言ってみれば /
固定したものでも /
完成したものでもなく /
生成しつづける /
試作であり /
予感であり /
未来であり /
あたらしい形成と /
可能性に対する /
自然の構想であり /
憧憬である」が、脳の研究によって科学的に裏付けられたかのよう。

わたしなんかが脳で一番すごいなと思うのは、「神」のような、人智を超えたものをイメージしうるということで、いったいそんなものイメージしてどうしようっていうんだろう? と思う。けれど、日常茶飯にイメージして神頼みしているのだから、すごいなと思う。

神なんかどこにもいやしないのに。
それは何のためだろう? と。

ともかく良書だ。

ことに、fMRIとゆう機械を用いた実験で明らかになったのは、魅力的な相手と目が合うと、脳の「報酬」のシステムが活発に活動するというあたり。目と目が合うという、そんな初めの一歩みたいな関わりが、大きな報酬(よろこびにあたるような部分)を与えるというのは、おもしろい。

そういえば、思い当たることあるような。

 

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*1:コピペしました;>こちら>「海にいるのは…」>ヘッセ

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