HYDE氏が毎年富良野で行っているファンクラブ向け(?)ライブの黑ミサ。昨年あたりから関東と和歌山でも行うことにしたらしく、わたしも行きたいなあと思っていた。座って聴く「アコースティックライブ」というスタイルも、わたしくらいの年代にはありがたい。で、行ってきたので簡単にレポする。恥ずかしいから後でDELしそうだけど。
ほぼ定刻通りに1曲目JESUS CHRIST、2曲目A DROP OF COLOURと英語の歌が始まった。これが音程外しまくっていてマジびびった。後ろのオーケストラの楽器の音ばかりが巨大で、歌唱ともマッチしていない。舞台設定的には、黑ミサの名にふさわしく、神秘的な灯りのともる舞台と、もやがかかったような薄暗い会場。そこへ一直線に演者を照らすライトの道筋が見える。雰囲気は抜群だ。しかし、しかし、どうなるのだ? と不安になった。
ところが次の曲evergreenで、ゆっくりと世界は回復した。穏やかな曲の山並みに豊かな色彩をのせていくかのような声。そんなイメージが広がる中、思った。”わたしたち、まるでHYDEの泉に水を飲みにきた動物たちみたいじゃない?” 泉に集まったというには大勢すぎるけど、子鹿、ウサギ、狸、馬、オウム、鳥、リスetc…。ゴクゴクとおいしいおいしいと乾いた喉をうるおしている。この感じ、不思議に涙が出た。隣の人も頬をしきりにぬぐっていた。その後はもうただただお水飲んだり、水浴びしたり。DEPARTURESは早い段階で出てきて、聴いてた音源とは違う歌い方で、こっちも相当良かった。良すぎてふくらはぎから脇腹まで鳥肌がたった。ZIPANGが早々に出てきたのも意外だった。てっきり最後を飾る曲が新曲のZIPANGだろうと思っていたから。ZIPANGはここまでの流れの中でダントツに派手な曲なんだけど、柔らかい優しさをたたえていて。
今、曲名をこうして出せているのは、他サイトが公開したセットリストのアンチョコを見ているから。その場ではすぐに何の曲と分からないのも多かった。特に叙情詩は聴きおぼえはぜったいあるのに「なんだっけなんだっけ」と、まったくもって気づかなかった。一曲一曲を歌い、歌い終わるとサンキュウと言って、合間合間にMC。HYDE氏は4曲目だったか5曲目に鼻が鳴る、というアクシデントに見舞われていた。大方の観客がそれを忘れた頃に、わざわざ拾ってMCに消化。本人が本当に可笑しそうに笑うから会場もつられてどっと沸いて。ひとしきりその話が続き、また歌に戻り。この人(とその歌)って何かに似ている、でもそれが何か分からない、と長らくモヤモヤしていたのだけど、突然思いついた。そうだ自然現象!!??と。たとえば突然降り出した雨、黒くたちこめる雲、水たまり、ぬかるみ、蛙、アメンボ、ガガンボ。眩しい太陽、過剰な紫外線、日焼け、蝉の鳴き声。樹、花、草、風etc…
そんなことを思いながらHONEY。聴き飽きたレベルのHONEYなのに、ボサノバ風のゆったりした海のようなアレンジと歌い方で生まれ変わっていた。XXXが始まった時は嬉しかったなあ。味付けの仕方がCDのと違ってもっとナチュラルな印象。forbidden loverはこの流れの中では必然のように鳴っていた。永遠は意外な選曲に思った。永遠は聴かせる歌い方というよりも激しく走り抜けるような歌い方だった。今思えば、次の曲に向けて気持ちが昂ぶっていたのかもしれない。MCが始まって「あと2曲」というから、どの曲だろう? と考え始めていた。その一方MCでHYDE氏は次の曲を歌える自信がないと弱音を漏らした。あまりライブとかコンサートに行かないわたしでも、前例の少ない異常事態が起きているように思った。 歌える自信がないとはどうしてだろう? 長い沈黙が起きた。オーディエンスが励ましのかけ声をあげた。ハイドー大好きだーと野太い男性の声も。それに応えている余裕もないみたいで、足踏みしたり後ろを向いたり。沈黙はとても長かった。でもそれは嫌じゃなかった。言葉にならない大きな塊が目の前に現れてくるような感じ。
歌う自信がないと弱気にさせた次の曲は、わたしには想像もつかなかったのだけどVAMPSアルバム収録のMEMORIESだった。少年時代の仲間との冒険を懐かしみ、それがいかに大切な思い出で、今も自分を支えているかといった歌詞だ。HYDE氏は破綻せず最後まで歌いきっていた。ただMEMORIES がそこまで重要である理由は何なんだろうかと、想像をめぐらさずにおれなかった。次の曲にして最後の曲のタイトルがHYDE氏の口から出てきたときは、えええっと心の中で叫んでいた。と同時に、山、川、風だったんじゃないのか? ここでそう来ますか? と息が止まっていたのであった。その曲、星空がいかに飾りもなくまっすぐに空に向かい、いかに鳴り響き心を揺さぶったか、とても説明できる自信がない。曲が終わると、人々は立ち上がり拍手した。半分放心したように、歓喜の心をもって立ち上がり拍手した。
ホールを出ると月がキラキラと輝いていた。夜の7時に始まって腕時計を見たら9時40分だった。ゆうに2時間半も黑ミサの聖歌に包まれていたらしい。かの人はまた蜘蛛やオケラや風や太陽のように輝くような気がする。微妙に怒られそうな比喩だが。なんか空気がおいしい。ライブって楽しいワ。生々しくていい。帰りの電車すら楽しい。去年はフジコ・ヘミングしか行かなかったからな。今年はいろんなライブに行こう。