『疑惑』–1982年の映画–今日のマスメディアに通ず
今年はおーーきなパラダイムシフトっぽいのが起きた年だった。それが何かというと、マスメディアのやっていることや言っていることが信用できなくなったがために、ネタ元としての信用度が失墜、ソースとして引っ張ってくるのが困難になったということで、ぶろがーとしてやりにくいこと甚だしくて困っている。
ただ、彼ら—大新聞やテレビの報道関係者—の利害に直結することでないニュースならば、特にねじ曲げる理由もないだろうから、そういうニュースを選んで取り上げるという方法もあるし、そうやって、現代社会の鏡としての犯罪に焦点を当てるのも悪くないとは思う。しかし、であっても、彼らの取り上げている犯罪ニュースというだけで気分が悪いし、そもそも彼らは警察からの情報頼みなのを理由に、かなりのところ警察と緊張感のないナァナァの関係にあるらしい。そんな話を聞くと「やだなぁ」と思うし「他人の犯罪で騒ぐ前にやることあるんじゃないの?」と思ってしまう。
そんなでテレビ見る時間がめっきり減ったので、家人が借りてきたDVDを鑑賞する時間が増えた。
これはそんな中の一本。製作1982年とかれこれ30年近く前の映画なため「ずいぶん昔の映画借りてきたねー」なんてちょっと文句を言ってしまったけれど、見れて収穫だったので紹介する。
→疑惑←概要はこちら
→アマゾンレビュー(2005年DVDのレビューより、2007年のこっちのがオススメ)
感想に関してはアマゾンカスタマーレビューが素晴らしいので、そちらに譲ってしまうけど、柄本明の演ずる「北陸新聞の記者」ってのが、今の時代のマスコミにそのまま通じているため、この時代にそれを活写した野村監督と松本清張氏の慧眼と妥協なき製作欲に感服した。この記者は、富豪の後妻である球磨子(くまこ。桃井かおり)がいかにも財産目当てで結婚した感じの悪い女だからと、勝手に球磨子を犯人と決めつけ「ネガキャン」を展開、世論を味方につけさえすれば、ない事実もでっち上げられるとばかりあることないこと書き立てて、<球磨子=すごい悪女、だから生命保険金目当てで夫も殺す>というイメージを広め、それが裁判にも影に陽に影響していく。これ「北陸新聞」ちゅうローカル紙にしたのはせめてもの温情で、本当は大新聞ってことにしちゃって良かったんだよなぁ。ただ、そうすると、桃井と岩下という女同士の関係を主題にしたいところがずれてしまうし、そもそもマスコミ様がご機嫌を損ねて宣伝しなくなっても困るから、あえてローカル紙にしたのだと思った。
実際その通り、マスコミの悪党ぶりよりも、桃井かおり演じる、どこまでも可愛げのない自己中高飛車女ぶりがいっそすがすがしくて、それを最後の最後まで貫いて凄かった。そればかりではない。そこへ加わる優秀なる弁護士の岩下志麻が、これまた憎々しいほど理に走った、それゆえ愛娘も、やさしげな女性(別れた夫の再婚相手)に奪われてしまうという、もう泣くに泣けない悲しい職業女のサガ全回で、まぁ今の時代でこそ、こういう生き方も多少支持されてはいるとしても、やはり仕事にだけ生きる女ってどうなの? という疑問符はあって、今だに未解決ではある。そこへラストシーンにいたって球磨子が「あたし、あんたみたいな女だいっ嫌い」とのたまい、「あんた、自分のこと嫌いでしょう?」「あたしは、あたしが大好き」とまで言われ、誰のお陰で冤罪にならずにすんだと思っているんだつう。それでも岩下志麻のことを球磨子は認めているんだ、なんて柔な心理や友情心は別になく、生き方違うもんは違うもん同士。
そんなで二大女優の激突が最大の見物となっている。
そんな中、柄本明演じる記者は、最後の最後まで、つまり、<実は球磨子は犯人ではなかった>と判明した後になってもまだ、岩下志麻演じる弁護士を非難している。これは、あんな財産目当てで男を食い物にするような悪党女は、冤罪でもなんでもいいから死刑になればいいのだ、という心理なのだ。
こいつ、ホント怖い。
おっかねーーーーと震えてしまう。