福島原発の真実 / 佐藤栄作久
☆『福島原発の真実』(bk1へのリンク)
☆佐藤栄作久(氏のWEBサイト)
☆佐藤栄佐久元福島県知事2011年3月20日(今年3月20日のインタビュー)
▼内容説明
日々、深刻の度合を深める福島原発事故。洪水のように溢れかえる情報の中で、一体何を信じたらよいのか? 国が操る「原発全体主義政策」の病根を知り尽くした福島県前知事が、そのすべてを告発する。
▼著者紹介
〈佐藤栄佐久〉1939年福島県生まれ。東京大学法学部卒業。参議院議員を経て、福島県知事に。2006年ダム工事をめぐる汚職事件で追及を受け、知事辞職、その後逮捕される。著書に「知事抹殺」がある。
☆ ☆ ☆
七月に入ってすぐに職場の呑み会があってA駅前に出向いた。駅前には「どりーむず」という本屋があって、この本屋のことは何回か題材にした。
ある時は(2006年)「本屋の中は妖気たちこめる戦場」、ある時(2007年)には「本屋行路」という志賀直哉にタイトルだけ張り合った一記事を練り上げた。(さっき読み直して、何が言いたいのかイマイチだったため訂正を加えた)
それくらい思い出深い「どりーむす」なのでゆっくりしていたかったし、買いたい本も何冊かあったので探したのだけど、「本屋行路」にも書いた通り若干妖しい本屋なので、どうも納得のいく品揃えではない。さすがに「スピリチュアル」だの「日本」連呼はもうなくなっていたが……。思えば2006年当時に「日本日本、願いは叶う叶う」と言っているヒマがあったら、原発の安全性に取り組んでいればよかったとつくづく思う。
それでも、入り口近くの平積みコーナーには原発コーナー(とは銘打たれてはいない。結果的にちょっと「原発」が多い程度)があって、時間がないので直感的にそこから一冊だけ選んだ。それが本書、
佐藤栄作久氏の『福島原発の真実』だ。
☆ ☆ ☆
読む前は読み進むのが難儀な本ではなかろうかとコワゴワだった。
が、すんなりと読めた。
そして、随所随所で、「どうして自治体の長がここまで頑張ってるのに、国は容赦なく踏みにじるのか」とたまらない悔しさがこみ上げて、うっうっと涙が湧いてきて、そのたび付箋を貼り付けた。そしたら緑付箋、黄付箋と付箋だらけになった。
しかし、しかしである。
ここを読む懸命なる読者諸兄諸妹はお察しだろうが、悔しくさせる元凶は国--詳しく言うと原子力委員会と原子力安全委員会を含む経産省--だけではない。首都圏に住むワレワレもなのだ。原発を立地させている県の苦悩など考えたこともなく、「電気代払うんだからいいでしょ」とばかりの態度ですませていたのだから。お断りしておくが、この本で佐藤氏は、決して都民を責めてはいない。そこに紙面を割くにはあまりにも他の事象がありすぎるのだ。ただ、さすがに書かずにいられなかったのが、石原バカ知事の暴言。
柏崎刈羽村でプルサーマル受け入れの住民投票が行われ、反対投票が過半数を占めた時に行われた「石原都知事と議論する会」では、
「一部の反体制の人がたきつけて、日本をぶっこわしちゃおうということだろう」だの
「原子力発電所は仕事をすればするほど危険だというわけもわからない理屈で反対している。東京湾に作っても平気なくらい日本の原発は安全だ」
だのとのたまっているのだ。今さら腹をたてるのも虚しいが、もう少しマシな思考回路は開通していないのか。時間がたつほど経年劣化するのだから、危険は増すと考えるのがマトモだと思うが? 道理で3.11の後の石原氏は神妙におとなしい。
それと、一部の反体制の人がって発想は、石原さん以外にも根強くあるし、自分もそうだったかもしれない。どうして原発への反対意見を言う人が「一部の反体制の人」ってことになってしまったのか、本書の焦点はそういう事ではないので、不明のままだが、いづれハッキリさせた方がいい。
(石原氏の暴言箇所はまだ他にもあるが割愛する)
「プルサーマルは必要なのか」というごくまっとうな疑問から出発し、民主的な手続き(話し合いや、識者を招いての勉強会や、意見の公募など)を経て「プルサーマルには反対」と形成された意見が、ぼろくずのように、経産省によって無視されたり、嘘をつかれたり、「ハシゴを外されたり」していく様子が、順を追って説明されている。
☆ ☆ ☆
ちなみに、官僚というのは本当に「ハシゴを外す」のが得意である。むしろ、「ハシゴを外す」のが仕事なくらい、しょっちゅうハシゴを外している。
たとえばこうだ。
佐藤栄作久前知事は2007年に任期の途中で収賄容疑※で捕まったため、現知事の佐藤雄平氏が次の知事になった。栄作久前知事のもとでは受け入れずに持ちこたえていた「プルサーマル」を、雄平知事の代になって受け入れることになった。ただし、みっつの条件を出した。「耐震安全性」「高経年化対策」「搬入から10年近く燃料プールに貯蔵したままのMOX燃料の健全性の技術的検証を行うこと」
2010年8月、それら条件は充たされたとみなされ、県はプルサーマルに同意を与えた。
ちょっと考えれば分ることだが、みっつの条件が充たされたかどうかなど、分るわけがない。チェック機構であるはずの原子力安全委員会は、何がなんでもプルサーマルをやらせようと、どんな嘘も誤魔化しもしてきた経産省の一部なのである。栄作久知事は(他の原発立地県も)、「泥棒と警官が同居」しているような機構を変えて、推進機関とチェック機関を分離してくれと再三申し出てきたが、それは今だ叶っていない。
そうやって受け入れてしまった2ヶ月後、福島県は経産省に裏切られる。
プルサーマルの最終処分場になるはずの六カ所再処理工場が、今までも操業延期につぐ延期をしていたところ、ほんとうに操業延期を発表してしまった。つまり、使用済みのMOX燃料の行き先がなくなった。ただでさえ「原発はトイレのないマンション」と言われるくらい使用済みのゴミの行き先に困るものなのだ。「プルサーマル」も、各地の原発でどんどん貯まる一方の使用済み核燃料を使うために「高速増殖炉」というのが始められ…と思ったら失敗して…となって、そのあげくなのだ(詳しい専門知識は他をあたってもらうとして)。とにかくそんなで、プルサーマルという通常の原発のゴミよりも毒性の高くなったゴミの処分場がないまま、プルサーマル原発(福島第一原発の3号機がそれなのは、もはや知らぬものはないほど有名になったかと思われる)が始まった。
そうして、福島県が最終的な核のゴミ置き場にされてしまった。
が、栄作久氏が憤るのはそのことよりも、「核燃料リサイクルは最初から破綻しているのに、嘘を重ねてプルサーマルを押し通し、再処理や安全対策にあえて『不作為』を決め込んだ経産省の存在。それこそが、福島原発事故の『元凶』である」と、静かに冷静に分析している。(内心は、はらわた煮えくりかえるどころじゃないと思うが)
☆ ☆ ☆
栄作久氏をリーダーとした福島県は長くプルサーマルを受け入れずにもちこたえてきたのであるが、栄作久氏は収賄事件をでっち上げられてつかまってしまう。森本宏検事に「あなたは日本のためによろしくない。いずれ抹殺する」と言われたことは、5月のTV Brosインタビューにも載っていた。(ここらへんの詳細は別の本『知事抹殺–つくられた福島県汚職事件』にあるそうだ)
でっちあげなんていうと、しつこくホントかよと疑う人がいるが、贈賄側の「水島建設」の会長が「やっぱやっていない」と証言したのだから。しかしそれで無罪になったわけではなく、「収賄ゼロ円。有罪」という、わけのわからない判決が下ったのだそうだ。…… 検察も検察なら、裁判所も裁判所。どうなっているのか。有罪にしたのは「検察の面目のため」だったりするそうだ。日本の司法は狂い放題狂っている。
これに関して栄作久氏は分析する。
検察は、自分達の都合のよい「シナリオ」通りにブルドーザーのように突き進む「経路依存症」なのだと。
「経路依存症」、原発政策でも経産省の官僚が同じようにブルドーザーだったことから、官僚の病いであると。
経路にひとたび不都合が生じると、嘘に嘘を重ね、逆らうものを抹殺する。
それが、か・ん・り・ょ・う
☆ ☆ ☆
官僚で思い出したが、NHKが「さかのぼり日本史」で<明治 「官僚国家」への道>というのをやっていた。(再放送あり)(全4回シリーズ)
ちょっとは官僚批判することにしたのだろうか? といっても、しょせんNHKは常識の範囲のことしか言わないから。
単なる「ガス抜き」番組かとも思ったが、さっそく見た第一回は一応「へー」と思うものだった。
☆ ☆ ☆
栄作久氏は、もともとは原発反対論の人ではない。
なにせ、知事になる前から原発はあるし、立地町では「7号機、8号機も早く作ってくれ」なんて言っていた。
原発というよりプルサーマルへの疑問から、民主的であることにこだわってリーダーシップを発揮していった。
なので、わたしの読み出す前の期待は、原発が事故を起こした時に、知事としてどうするつもりでいたのか知りたい、というのがあったのであるが、栄作久氏は、事故があったらということは少ししか予想していない。(事故後におきた被曝熱傷の対処を福島医大が適切にできたのは、栄作久氏の時代の成果。ただ、それ以上大々的な避難の事などは考えていなかった模様)
長く、原発に関わってきた人でも、原発は安全だと信じていたふしがある。
危険について考えたところで、あの経産省じゃ完全にラチがあかなかったろう。
なにせ、原発はしょっちゅう傷やら亀裂やら細かい事故が起きているのであるが、隠したりとぼけたりがすごいのだ。
しかも内部告発の内部告発なんてわけわからないのもあり、経産省内部の抗争の形跡もあり? で、下手なスパイ小説よりもバカなことをやっているのが官僚だ。
あんまり官僚のことなんか、語ってやりたくないので、必要最小限にしてみた。
あの人たちは常識外だから、けなされて喜んでいかねないので、不気味だし。
☆ ☆ ☆
ほんとうに、栄作久元知事、おつかれさまでした…m(_ _)m