田辺さんのゆめ

key words ゆめ 携帯メール 

 
深夜から朝にかけての仕事だったので一体いつからいつまでが今日の日付といえるのか確信はもてない。
しかし、休憩時間の二時間弱の間にゆめをみたのを覚えている。
田辺さんのゆめだ。田辺さんはわたしと同年代のかつての同僚だ。乳がんの手術をして何年間か働いていたけれど、だんだん治療か薬の影響なのか足を引き摺るようになった。手に力の入らないことも多くなり、五年前に職場を去った。
田辺さんから7月あたりにメールが来ていた。
その前は3月で、飲もうという話しだったけれど、3月は地震と津波と原発でそれどころではなかった。
4月か5月にも来たけれど脱原発デモに行く用事がメインだからと断っていた。
7月のメールにいつまでも返信しないでいるうちに秋になった。
ゆめの中の田辺さんは、駅前のドラッグストアから出てきた。
小学生の子どもふたりを連れていた。
田辺さんは若くて、知り合った頃にそうだったようにテキパキしていた。
わたしは田辺さんに後ろめたくてゆめの中でもコソコソしていた。
声をかけられず、後ろからこっそりと着いていった。
夜なのでドラッグストアを離れると暗くて見えなくなった。
わたしは田辺さんの姿をすぐに見失った。
それだけ。
声をかければいいのにかけないせいで、田辺さんもこちらに気付かなかった。
わたしに気付いたらどんな顔をしたのだろう。
その顔を見たかったような気もするし、
見ないでよかった気もする。

投稿者 sukima