君が代は千代に八千代に / 高橋源一郎
- 作者: 高橋源一郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/09/02
- メディア: 文庫
- クリック: 26回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
もっとも危険な小説集
ついに文庫化!
と文庫の帯に書いてあって、この作家の書いた小説を読むのは初めてであるが、タイトルがいかにも危険そうだったので買って読んだ。
結論から言えば、きわめて危険であった。
人によっては「え? あの程度で危険? あんなの安全地帯もいいとこだよ」と得意になって言うかもしれない。
わたしは無神経と暴力に耐性のできすぎたそういう人と、あまり付き合いたいと思わない。
反対に、何でもすぐにビクビクしたり不潔がったりするのもどうかと思う。
本編は13コの短編で構成されているので、ほんとうに危険かどうか個々に見ていこう。
Mama told me
個人的にすごく危険だった。というのも、不肖わたくし病院でしか働いたことのない病院育ちなんだけど、何が慣れないって口から出てきたものが駄目で、吐寫物はもちろん、ガーグルベース(うがい受け)に吐き出したものも駄目。今まで一番おぞましかったのは、或るおじいさんが、入れ歯を口からはずし、入れ歯にこびり付いたさっき食べたばかりの昼ごはんのカスを、ぺろぺろ舐め取っているのを、見てしまったとき! 思い出しただけで血の気が引く
口、にくらべたらウンチとかオシッコなんかファンシーでファニーでプリティ!
そういったこともあって、口に関してMama told meは心身ともにおぞけをふるってしまう、究極のアダルトビデオを描いてみせた。
Papa I love you
個人的に、というかかなりのところ普遍的に、と思うけど、危険だった。
ひとつの言葉にとらわれて身動きできなくなってしまうのは、わたしもよくあるのだ。リアルに危険。
Mother Father Brother Sisitr
こんなシーンで「君が代は千代に八千代に」の伏線っぽいセリフが出てくるのが贅沢。「君が代」という歌の出自が分かる。
殺しのライセンス
殺し屋ものは大好きだ。けどこのタイプの話は洒落ていないと駄目なんで、その点高橋源一郎のセンスはすばらしいと思う。
素数
作者自身の解説にあるとおり、あるベストセラーを連想させる短編。でもこっちのが先だそうだ。
そのベストセラーとは『博士の愛した数式』なんだろうけど(わたしも感想、書いてます)、あっちよりも突っ込んで難しい数学なので(と、思える)、読むのちょっとつらかった。
SF
SF世界はよほど相性が合わないと入っていけないので、3回読み始めて3回目にやっと入っていけた。入ったら本当にSFで、しかも面白かった。
ヨウコ
「ゆっくり」という言葉がこんなにドスケベエだとは思わなかった。しかも、ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりと、すさまじくしつこい上に、太字だ。これに比べたら、レイザーラモンHGの腰の振りなんてゆっくりじゃないからぜんぜん危険じゃない。言葉って未知の領域たくさんあるんだ。
チェンジ、チェンジ2
作中にも出てくる大林映画の『転校生』が、男女の体の相互の入れ替りだとしたら、相互ではなくセックスのたびに相手と入れ替わっていく無方向な入れ替わり。読んでて今主人公(話者)が誰の体をしているのか混乱して楽しい。あえて言えばドタバタとかスラプスティックなのかもしれないが、そんな用語も馬鹿馬鹿しくすっとぶ。
人生
こういうのが一番多数派としての危険なのかも…。よく分からない。
君が代は千代に八千代に
僕らの日常と、神様みたいな超偉い人たちがクロスする。特に危険とか暴力的とか刺激的ではなく、読み落としでなければ、天皇も出てこない。←読み落としていなければ。
会話のテンポがよくて、楽しくサクサクと読める。
愛と結婚の幻想
危険というか、身につまされて痛い。
しかし、騙されないけど不幸なのと、騙されているけど幸せなのは、どっちがいいんだろ?
鬼畜
言葉が神経を刺激し電気信号を発生させるのだとしたら、「鬼畜」が発生させる電気パルスは(わたしには)危険すぎて全文は読めなかった。ビリビリズギャンビリビリズギャンビリビリズギャンって感じで。
もの知らずのわたしは全部作者の創作なのかと思って、すごい病的なことを思いつく作者だな、なんて眉をひそめたのだが、今ネットで調べたら本当にスプリットタンとか身体改造があってひっくり返った。
タナカがびっくり仰天した二股に裂けたベロも、探偵ファイル2003/12月に写真載っていた!!!!
タナカでなくてもびっくりするよ、ほんとにもう。
そんでもことさら小説の優位を言いたいわけではないが(そんな義理も立場もない)、写真の方はつい片目でも見たくなってしまうもので、「鬼畜」ほど神経を苛みはしなかった。
そういえば、ごく若い頃『ドクター・アダー』というSFを読んで、客の快楽(つまり儲け)のために四肢切断している売春婦の描写にひっくり返ったが、ああいうのももう遠いフィクションではないのかもしれない。
ということで、今はスプリットタンショックに陥っている。
(ひとには到底すすめられない写真。見ないほうがいいかも)