『検証福島原発事故・記者会見』に関する私的メモ

1.メルトダウン

 福島第一原発の核燃料がメルトダウン(定義は様々だが、本書では燃料が溶けて圧力容器の底に落ちた状態とする)していることを東電が正式に認め、保安院がこれを追認したのは五月十二日、事故から二ヶ月も経過した後だった。
 しかし、事故直後の記者会見から、メルトダウンの可能性を認めていた官僚がいた。保安院の中村幸一郎審議官だ。中村審議官はその後すぐに記者会見での説明者としての任を解かれてしまう。そして新たに登場した西山審議官は、メルトダウンを否定し、燃料は損傷しているが被覆管破損したにとどまっていると説明した。(後略)

p.14


自分の、12日から22日までを記録した日記を読み返すと、記者会見で上記引用のような経緯があったことなど知りもせず、ひたすら怯えて暮らしていたのが分かる。中村審議官のことも、ずっと後になって知ったのだ。
しかしそれも変な話しで、うちがとっている東京新聞の12日の紙面は↓↓これだ。
tokyo-rosin.jpg
炉心溶融という大きな活字が踊っている。
いくら新聞を読まない自分でも、一面と最終面をつなげた巨大紙面に載っているのだから、目に入らないわけがない。しかしわたしは恐怖のあまり、これらを横目でチラリと眺めやるだけでまともに読んでいなかった。
つまり、情報として必ずしも出ていなかったわけではない「炉心溶融」(=メルトダウン?)という言葉が、脳内で咀嚼できない精神状態だったのだ。
メルトダウン。今以て理解したとは言いがたい事象であるが、本書を参照し説明する。
<メルトダウンが生じることで放射性物質を閉じ込めるものが失われ、高温な燃料が原子炉圧力容器、格納容器を破壊、そして原子炉内で水蒸気爆発や水素爆発が起きると、広域に渡って放射性物質が飛散する>
つまるところ、メルトダウンはそれ単体で恐ろしいのではなく、それが起きたことによって起きる、次の事態が恐ろしい。
次の事態とは何か? 放射性物質の拡散であり、それを浴びたり摂取したことによる健康被害であり、その土地が住めなくなる、農耕出来なくなるなどの被害だ。
が、中村審議官から他の会見担当者になり、東京新聞や朝日新聞のように一度は炉心溶融と表し深刻さを示したメディアが、いつの間にかトーンダウンし、保安院の発表の通り、溶融ではなく「損傷」に表現を変えていく。
ここらへん、生粋の文系人間なら「分からなかったんじゃない」とか「勘違いだったんじゃん」とか、「メルトダウンかどうか確信がもてなかったんじゃん」などと考えるところであるが、すばらしいことに(そしてそのすばらしさをまったく生かせなかったことに)、国にはERSS(緊急時対策支援システム)なる高度な機械があり、それによって原発内部の様子を解析や予測ができた。
ERSSを所持しているのは原子力安全基盤機構つう経産省の一部機関で税金で運営されているみたいだから、その結果を公表、情報開示する義務があるし、実際サイトを見ると「原子力災害が発生した場合には、住民の安全を確保するために、迅速かつ的確な(後略)」と書いてある。しかし、この結果はずっと後になるまで公表されなかった。
しかもメルトダウンの可能性について菅総理らには、報告はされていたらしいのである。
ところが、いつのまにかその情報は消えていた。
誰が、どういう判断で?
すでにして二度の爆発が起き、放射性物質が拡散しているのは分かっているのに、この後におよんでメルトダウンを認めまいとあがく、その理由は何なのか?
ここらへんの疑問は「10 何を守ろうとしたのか」にもある。
思ったのは、
中村審議官なる人物が、トキの繁殖に成功したみたいなノリでメルトダウンなんて言い出していたなら(動画は未見だが写真がそういう雰囲気)、いったいどういう感覚しているんだと怒りたくなる。中村氏は本書によると東京大学工学部出身で安全基盤担当者であるから、氏の感覚は、一般市民とは違い、メルトダウンに対しても落ち着き払っていたのかもしれない。
そう思う時、文系的感性においては、さまざまなフィクショナルな発想や表現物によって、恐怖心が作られている(さまざまな作品、もしくはドキュメンタリという、トータルに表現物)、そのことと、理系(というのか東大というのか)とのギャップが、気になる。
つまるところ、分断ということが言いたいわけだが…
ところで、そういった隠し通そうとした経緯がなぜ明らかになったかというと、雑誌『AERA』の記者などが追求したため、保安院が9月2日に情報を開示した。保安院などは、3月11日の事故直後からメルトダウンの可能性が極めて高いことを、十分に認識していたこともわかった。
ここから読み取れることは、
取材に基づいて追求していけば、相手は答えていく、ということかと思う。
問うことを行う。
相手は嘘や誤魔化し、隠蔽を行うが、問わなければ答えることもない、だから、どこまでも問わないといけないということかと。

注意
以上の内容に、事実関係で間違いを書いている可能性があります。
その場合、書物サイドの間違いではなく、当方の読解ミスですので、正確には本書をあたってください。
非常に複雑な経緯をたどっていますので、時系列で整理されている本書をお手元に置くことをおすすめします。
ぴかぴか(新しい)検証福島原発事故・記者会見 東電・政府は何を隠したのか